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高崎健康福祉大学教授 江口 文陽さん(高崎市倉賀野町)

【略歴】東京農大大学院博士後期課程修了(農学博士)。日本きのこ学会理事、日本木材学会幹事、県きのこ振興協議会顧問。日本木材学会奨励賞、日本応用きのこ学会奨励賞など受賞多数。

環境保全型農林業



◎生産性向上などを確認

 近年、大量消費=大量廃棄=社会に伴う廃棄物の増大により、環境に対するゼロ・エミッション社会の構築が求められています。農林業においても例外ではなく、バイオマスの有効利用への期待は高まるばかりです。

 また、昨今の食品産業の事件を見るまでもなく、食品選択における重要な指標は食品の安全性の確保となりつつあり、環境保全型農林業への転換も社会的要請となっているといっても過言ではないでしょう。しかしながら、環境保全型農林業の振興には多くの解決すべき問題が山積しているのも事実です。

 私は、環境保全型農林業での生産活動を行うため、次に示すような研究ストラテジー(戦略)を立案し、キノコを活用した作物生産の場で実践しています。それは、これまで曖あい昧まいに議論されてきた薬理作用のあるキノコの農林科学的な解析、すなわち(1)育種(品種開発)による菌株の特定(2)栽培培地(原材料および培養方法)の固定(3)栽培環境の固定―をベースにして再現性を確立した上で、薬理作用の解析を試みるということなどです。

 このような科学的根拠を基にして、社会的ニーズの高い国民の求めるキノコの品種開発、生産地域の人材雇用の創出、長寿社会づくりおよび循環型社会づくりとを融合させるシステムを構築したいと考えています。

 特に、環境に配慮したバイオマス有効利用の循環型生産形態を試み、食品製造業から発生する残渣(ざんさ)をキノコの生産のための栄養源として活用するとともに、キノコ生産後の廃培地を堆肥(たいひ)化(メタンガス発生などを起こさないバイオマスの完全熟成物の調製)し、その肥料を用いた水稲や野菜(ナス、キュウリ、トマト、イチゴなど)づくりを検証してきました。

 その結果、慣行栽培と比較して収穫期間の短縮・収穫量の増多、殺菌剤や農薬の低減あるいは無農薬化、連作障害やなり疲れの改善など生産性の向上、食味・糖度・有用成分の含有量の向上、日持ちの向上などが確認されました。

 現在、キノコ生産現場では、木本植物から得るオガクズと稲ワラやサトウキビの葉などの草本植物を用いる菌床栽培が増加しており、キノコ収穫後の栄養価の豊富な廃菌床をリサイクル肥料源とした農業経営方法として、有菌複合経営(肥料源として家畜を利用して作物を栽培する有畜複合経営に対した造語)の整備が不可欠と考えます。

 現在までに、草本植物を利用した廃菌床では二次加工処理なく元肥として圃場(ほじょう)に施肥できるシステムが構築されましたが、今後は木質系バイオマスの優良堆肥への手間のかからない変換法の開発を考えています。皆さんも、そんな研究に取り組んでみませんか。その取り組みは、地域リサイクルの観点のみならず、農作物の高付加価値化や農家の経営体力の強化、そして有用作物の摂食による国民の健康増進にもつながるものと思います。

(上毛新聞 2004年8月17日掲載)