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生活評論家・薬剤師 境野 米子さん(福島県在住)

【略歴】前橋市生まれ。千葉大薬学部卒。都立衛生研究所に勤務後、福島県に移住し、暮らしの安全について模索。著書に『安心できる化粧品選び』(岩波書店)『玄米食完全マニュアル』(創森社)など。

古民家



◎証明された健康住宅

 古民家が正真正銘の健康住宅であることが証明され、五十万円の賞金までもらってしまったのは、一九九六年のことでした。ナショナル電器産業が主催した「第二回健康な住まいコンテスト」に入賞したのです。

 全国から百八十五点の応募があり、書類審査で十五点に絞られ、その中に入っただけでも「奇跡だ!」と喜んでいたのに、入賞ですから驚きました。「健康、快適、安全、利便」という四つのテーマのハードルをクリアしたわけですが、古民家のどんなところが評価されたのでしょうか。

 今日の建築の主流は、高気密、外断熱。ですから、第一回の優秀作品は総ガラス張りで、一年中快適な温度が保たれるように設計された家でした。応募した設計士の松井郁夫氏は「阪神・淡路大震災もあったことだし、省エネどころか冷暖房なしには住めないガラス張りの家を、健康住宅とは問題だ」と考え、数ある設計した仕事の中から、あえて古民家で応募し、健康の意味を問い直したかったといいます。でも、松井氏当人が「正直、信じられないですね。ありえない話ですよ」と言うのですから、快挙というより怪挙なのかもしれません。

 わが家はご想像通り、超低気密、反外断熱。快適な温度が保たれるどころか、冬の囲い炉ろ裏りの空間は日が差し込まないので、外より寒いのです。その年の二月に実施された現場検証では、大阪や東京からおいでになった審査員の方たちから「イヤ、寒いな。北海道の家のほうが、はるかに暖かい」と言われました。検証の結果も、ホルムアルデヒドの濃度は問題ないにしても、部屋ごとの温度、湿度などのデーターは最悪でした。

 古民家で議論が沸騰した審査の様子を漏れ聞くと、「温熱環境や利便性では問題あり。しかし、夏と冬をすみ分ける工夫や、歴史的建物の再生・保存と現代の暮らしを共生させる意図や工夫が、精神的・社会的健康として評価」されたようです。台所は灯油の床暖房など、増築の水まわり部分は最新式の機能を取り入れ、建具や床の塗料はすべて柿渋や、柿渋にベンガラ・墨などを混ぜた自然塗料を使うなどの安全性、修復を大勢の人に呼びかけ、その過程を共有し、家を開放してさまざまなイベントをしている社会性が評価されたのです。

 この古民家に暮らす動機が食の安全でしたから、壁の中のコマイを結ぶコテ縄も、手で編んだ本物を使っていますし、掃除もハタキ、ほうき、雑ぞう巾きんが三種の神器ですし、建具を磨くのは、てんぷらを揚げる菜種油などと、「健康度」には自信があります。

 「寒いでしょう」と多くの人から同情されますが、家族で誰も風邪をひく人がいないことは、不思議です。寒さには人一倍弱いのですが、寒さでは風邪はひかないと教えられました。そうそう、賞金の五十万円ですが、それまでに手伝ってくれた人たちに呼び掛け、百五十人を超える人たちで飲み食いして、一日で使ってしまいました。

(上毛新聞 2004年8月21日掲載)