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群馬アレルギーぜんそく研究所長 黒沢 元博さん(邑楽町篠塚)

【略歴】群大医学部卒。医学、薬学博士。米セントルイスのワシントン大内科学免疫アレルギー部門フェロー、弘前大と秋田大助教授などを歴任。アレルギーなど研究のAAAAI国際コミュティ日本代表メンバー。

ステロイド



◎病態に応じ正しく使う

 アレルギー治療におけるステロイド情報が混乱している。あなたは、「アレルギー治療にステロイドを使うなんて、とんでもない」と思い込んでいないだろうか。しかし、ステロイドなしで人間は生きていないことを、あなたは知っているだろうか。

 人間の体は毎日、ステロイドを産生している。プレドニゾロンと呼ばれるステロイドに換算すると、その量は一日およそ五ミリグラム。この五ミリグラムのステロイドは、人間の生命維持に不可欠なのだ。

 世界的にみて、ステロイドが病気の治療に初めて使われたのは一九四八年。重症の関節リウマチに使われ、劇的な改善効果が見られた。アレルギー疾患では、気管支ぜんそく治療にステロイド注射薬が使われたのが一九五〇年。ぜんそく症状は明らかに改善した。これらの成果に対し、ステロイド開発に携わったグループはノーベル賞を受賞した。

 注射薬に引き続き、飲み薬、塗り薬、吸入薬など、さまざまな剤型のステロイドが治療に使われるようになった。ステロイドは、気管支ぜんそくの病気の仕組みを見事に抑えることも明らかとなった。しかし“薬”としてのステロイドは適切な使い方をしないと、全身的にさまざまな副作用を引き起こす。

 副作用は、生命維持に必須のステロイドを薬として必要以上に使い過ぎ、もともと体がつくるステロイドの産生量が抑えられるために出現する。従って、ステロイドを上手に適量に使えば、副作用を心配する必要はない。

 では、どう使うのか。飲み薬のステロイドは可能な限り避けたい。どうしても内服しなければならないときでも、可能な限り短期間に正しく使いたい。自分で飲む量を変えたり、適当に飲まないことが肝心。強力な飲み薬だから、突然中止することは極めて危険である。

 局所のステロイドの使い過ぎも危険。アトピー性皮膚炎治療でステロイド軟なん膏こうを使い過ぎ、副作用が出現したことも事実である。ステロイド軟膏が皮膚から吸収されて血液に入り、ステロイドを飲み薬として飲んだときと同様の全身的副作用が出現することもある。

 気管支ぜんそく治療においては、盛んにステロイド吸入薬が使われている。ステロイド吸入薬は、長年安全といわれてきた。しかし近年、わが国においても強力なステロイド吸入薬が使用可能となり、その安全性に疑問が生じつつある。事実、アメリカでは、一九九八年からFDA(食物薬物管理局)の指導の下、ステロイド吸入薬に対して、副作用の可能性を明記することが義務付けされている。

 アレルギーの病気の仕組みを考えると、ステロイドに優るアレルギー治療薬がないことは、世界共通の認識である。しかし、アレルギー疾患の仕組みを考え、病態に応じて、正しくステロイドを使用することが大切である。専門医のいる医療機関で、正しい治療を受けることをお勧めする。

(上毛新聞 2004年8月24日掲載)