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東京経済大学教授 田村 紀雄さん(東京都八王子市)

【略歴】前橋市生まれ。太田高卒。東京大学新聞研究所、カリフォルニア大、中国対外経済大等で研究教育に従事。お茶の水女子大、埼玉大等で講義。東京経済大で学部長、理事歴任。日本情報ディレクトリ学会会長。

外国人留学生



◎吸収力発揮し技術移転

 日本人は、外国人と付き合う場面が増えている。一度も海外旅行をしたことがない人でも、近隣、職場、学校で、友人や知人に外国人はいる。それも、これまで主役だった韓国、中国、台湾に加えて、アジア各地、ヨーロッパやアフリカと、世界各地に及んでいる。

 特に大学や専門学校への進出はめざましい。私も、いくつかの大学や大学院で教鞭(きょうべん)を執っているが、必ず外国人留学生がいる。それも学歴が高いほど多い。高校より大学、大学より大学院の方が、留学生が進出しやすいからだ。逆にいえば、日本人に向学心が少ないからでもある。結果として、博士号を取った多数の外国人が、日本で教壇に立つようになった。この傾向は、今後も強まることだろう。

 私がこれまで指導した留学生も、七、八カ国に及ぶ。彼らと接していて、こちらが学ぶ点も、考えさせられることも多い。

 まず、学ぶ点。彼らの多くは議論好きだ。特に時事的なトピックスには敏感である。母国の新聞を全員が定期的に読んでいるわけではないが、そこはIT時代。インターネットでよく出自の国の情報をフォローしている。

 新しい社会的争点が生まれると、必ず用意してきたかのように自説を展開する。おおむね国益に沿っている。日本の学生や大学院生が、意見を持たないのと対照的だ。

 考えさせられる点。日本の新しい技術、ビジネス、流行にはどん欲なまで吸収力を発揮する。私の研究室の修士課程の院生には、毎年「社会調査」への参加を義務付けている。社会調査の能力というのは、テキストを読んだり、教室で講義を受けただけでは身につかない。自然科学の実験と同様、実際に自分の手を使い、汗をかかないと覚えない。

 かくして、この夏休みも調査を自分たちで計画し、方法を設計し、集めたデータをパソコンに打ち込み、分析することになった。この夏の汗は、調査票の上に滴り落ちた。調査のテーマは、近年流行のフリーペーパー(無料の新聞類)に、なぜ商店は広告を出すのか。無料で配布しているということは、広告を集めていることだ。広告効果のないとこに広告料を払う必要はない。

 広告を出す理由は、効果があるからだ、と広告主たちは調査で語っている。広告が集まるとなると、次々と新しいフリーペーパーが生まれてくる。おそらく全国で数百種類、総発行部数は二千万部は超えると思われる。実をいうと、私の学部生も、このフリーペーパービジネスに魅せられて、何年かに一回一人、一人と就職していく。

 留学生が、このニュービジネスを見逃すはずがない。帰国したら、それぞれの国情に合った形で、起業したいと意気込む。これは新しいタイプの技術移転なのだ。調査の理論や技術とともに、メディア事業も国境を越えている。

(上毛新聞 2004年9月5日掲載)