視点 オピニオン21
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建築家・地域計画工房主宰 栗原 昭矩さん(伊勢崎市山王町)

【略歴】京都工芸繊維大住環境学科卒。横浜、前橋の設計事務所を経て、1998年独立。歴史的建物を生かした「地域づくり」や調査に取り組む。伊勢崎21市民会議座長などを歴任。

現代の民家づくり



◎住まいは地域の文化に

 私の本業は建築の設計です。住まいづくりを中心に設計活動をしていますが、近年の一般化した住まいづくりの在り方に自分なりの疑問を持ち、模索しています。近くの山に使える木がたくさんあるのに、多くは輸入材と新建材。伝統的な技術や構法は生かされず、目先の快適性や経済性ばかりが追求され、消費財として造られ買われる全国画一的な住宅。住む人の要求のすべてを満足させることばかりを追求した便利過ぎる商品化住宅―等々。

 このような状況は、戦後のわずか数十年の中で構築されてきました。それまで培われてきた地域の気候風土に適合し、暮らしの知恵が盛り込まれた地域性豊かな住まいは、古くて今の暮らしには合わないものとして捨て去られようとしています。このような国は、恐らく世界を見回してもあまり例がないかもしれません。そして、その結果として現れた日本の街並みは日本らしさを失い、混とんとした街並みが日本の街並みを席巻しようとしています。

 とはいえ、戦後の経済成長とともにあった住まいづくりの進展は、多くの便利な暮らしをもたらしてくれました。生活は豊かになり、暮らしやすくなりました。しかし世紀が新しくなり、社会が混とんとしている中で、経済性や効率論だけでは、真に豊かな人間性を育(はぐく)むことはできないということも、少しずつ見えてきました。

 このような時代において、あえて私が今よりどころと考えている視点は「現代の民家づくり」です。今、目にする日本の築百年を超える古民家には、長い時間の中で積み重ねられた空間の魅力を感じ取ることができます。それでは、今造る住まいを未来の人たちに「民家」として評価されるには、どんな住まいを造るべきか、という視点です。言い換えれば消費されて産業廃棄物になるのではなく、受け継がれて地域の文化になり得る住まいです。

 私が考える具体的方策は、近くの山の木を生かし、地域の自然素材を生かし、伝統的な構法や技術を生かし、必要以上に遮断するのではなく、緩やかに外に開き自然とともに生き、世代を超えて住み継ぐことができる住まいを地域の中に埋め込むようにして協働作業で造り上げていくことです。そこには今、社会で顕在化している環境問題やシックハウス問題への答えも組み込まれています。

 住宅は確かに個人の持ち物ですが、その住宅が集まり、家並みとなり、地域の街並みを形成しています。そういう点において、住宅は社会財産といえます。かつては、このようなことを意識しなくても、地域の材料と技術で造るという必然性の中で地域性豊かな街並みが形成されましたが、今は一人一人が意識しないと地域性を生かし受け継ぐことが難しい時代となりました。真に豊かで故ふるさと郷と呼べる地域を次の子供たちへ伝えるためにも、あらためて住まいづくりの在り方を考えてみてはどうでしょうか。

 「現代の民家づくり」をよりどころとした住まいづくりを考えることは、実は一番小さな「まちづくり」なのです。

(上毛新聞 2004年9月9日掲載)