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県立歴史博物館長 黒田 日出男さん(東京都練馬区)

【略歴】東京都生まれ。早稲田大卒、同大大学院修了。東京大史料編纂所教授、文学博士。第7回角川源義賞受賞。著書は『龍の棲む日本』(岩波新書)『謎解き 伴大納言絵巻』(小学館)など十数冊。

9月の特別展示


◎「妖怪」は群馬の森にも

 県庁の昭和庁舎特別室で、七月二十四日から八月二十二日まで開催された県立歴史博物館の特別展示「描かれた妖怪 妖怪ぞろぞろ・おばけの絵とおもちゃ」は無事終了した。入場者数はなんと七千五百人を超え、昭和庁舎特別展示の新記録を達成したらしい。やはり夏休みには妖怪がふさわしい。十分に楽しんでいただけたのではないか。実は、この大入りを予想していた。というのは、一昨年夏に当館で開催した第七二回企画展「妖怪」もたくさんの入場者があったからである。

 そこで、昭和庁舎特別室での展示だけで終わるのは、あまりにももったいない、と当館は考えた。昭和庁舎特別展示を見られなかった人たちもまだたくさんおられるだろう。歴博のカレンダーでは、十月からは恒例の子どものための特別展示「むかしのくらし」があるが、九月は空いている。まだまだ暑い九月なら、「妖怪」たちも生き生きしているだろう。ならば群馬の森の県立歴史博物館企画展示室でも開催できるのではないか。

 しかし、すぐに特別展示を用意するのは至難である。昭和庁舎特別室からの撤収があるし、十月からの「むかしのくらし」展示の準備もある。その間に、「妖怪」の特別展示の準備と撤収を入れることができるだろうか、歴博スタッフによる検討がなされた。

 その議論と調整の結果として、群馬の森でも特別展示をやろうということになった。かくして、群馬の森の県立歴史博物館は、今月四日から特別展示「妖怪ぞろぞろやってきた―おばけの絵とおもちゃ」(二十六日まで)を開催した。歴史博物館の企画展示室は昭和庁舎特別室よりもずっと広いスペースなので、展示内容はより充実したものになった。新収蔵資料も展示されているし、「妖怪すごろく」で楽しむコーナーも用意した。

 昭和庁舎特別展示を見損なった子供たちはもちろんのこと、昭和庁舎に入場した親子も再度見ていただきたい。「傘おかめ」も「波乗り河童(かっぱ)」も「牛鬼」も「おばけの金太」も、そして「天狗」も、皆さんをお待ちしている。

 今、県は厳しい財政状況にある。そのなかで、県立諸施設はそれぞれ、さまざまな工夫を凝らしつつあると思われるが、今月の特別展示はそうした努力の一例となるであろう。肝心なのはマンパワーであり、スタッフの創意工夫なのである。

 今月の「妖怪」展示がどんな結果になるか、無論、それは分からない。しかし、すでに成果がある。こうして県民の皆さんに博物館で楽しんでもらえる機会を設定できたこと、これである。本当にうれしいことだ。思ったほどの入場者がなかったとしても、少なくとも「妖怪」たちが喜んでくれるに相違ない。恐らく彼らは言うであろう。妖怪たちだけに容喙(ようかい)して、なるほど県立歴史博物館も少しは化け始めたのかい、と。

(上毛新聞 2004年9月14日掲載)