視点 オピニオン21
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勢多農林高校教諭 新井 秀さん(前橋市箱田町)

【略歴】高崎女子高、東京教育大体育学部卒。陸上競技の現役時代は走り幅跳び国体3位、400メートルリレーインカレ入賞。1968年、松井田高教諭となり、伊勢崎女子高、高崎女子高を経て現職。

リセット人類


◎大人の責任が問われる

 メダルラッシュで日本中を沸かせたアテネ五輪が終わり、新学期も始まりました。早速、授業で生徒にオリンピックの感想を求めたところ、新たな驚きを感じました。例えば、テレビ観戦についてはライブ、ビデオを合わせても各組六人程度しか見ていないこと、プロで固めた野球や、サッカー、陸上などはほんの数人しか見ていないこと、マイナー競技に至っては、ほぼゼロに近いものでした。辛うじて見ていたのは、柔道、水泳でした。

 私には予想もできなかった結果なので、なぜなのか探っていくと、例によって「興味がないから」です。国民的イベントであるオリンピックも、興味のないものでしかなかったことになります。夏休み中、何をしていたのかといえば、携帯電話や遊びのためのバイト漬け、そして寝ていた―が圧倒的でした。驚きというより、ショックです。なぜこうなってしまったのでしょうか。

 今月上旬、テレビのNHKスペシャル「子供が見えない―大人はどう向き合うのか」の中で、大人の知らない世界では子供たちの別世界、すなわちほぼ一日中、子供たちはパソコンに向かい、ネットの世界で自分の顔も相手の顔も見えないことから無責任になり、本人の人格とは違った自分になりきって毎日を過ごしている。このことによって、生の人間とのコミュニケーションを図ることが不得意になる傾向がある、と報道されていました。

 多くの子供は、大人の知らない世界で生活し、大人の手の届かないところに行ってしまった、といわれています。しかし、子供たちは何も知らない世界から大人の敷いたレールに乗せられ、家庭や学校で満たされない何かを、そこに見いだしているのだと思います。パソコンの学校導入については、ほとんど功罪を検証することなく配備し、にわか仕込みの教師に指導させることによって、深刻な諸問題が取りざたされています。

 かつて新人類とか、宇宙人とか、その時代を反映した若者の行動をとらえて、大人はその不可解さや理解しがたい事象から、そう名付けました。現在の子供は、さしずめ、バーチャル人類あるいはリセット人類とでも名付けられるのでしょうか。興味のないものには関心を示さず、興味のあるものにはのめり込み、自分だけの世界にはまってしまう生徒や子供を見ていると恐ろしくなります。

 前述のテレビ番組で、小学校教師が「パソコンをいじるより、土をさわれ」と述べていましたが、同感です。テレビゲームでは何度もリセットでき、バーチャルの世界と現実との境界があいまいになり、現実に子供が殺人まで引き起こす状況になっています。人が生きていくには喜びや悲しみなどが混在し、人の生き方をリセットすることは生易しいことではありません。リセット人類もやはり、大人の犠牲になっているといえるのです。

 私たち大人は、子供たちにどう責任をとるのかが、厳しく問われていると思います。

(上毛新聞 2004年9月19日掲載)