視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
中小企業診断士 小谷野 善三郎さん(神奈川県横浜市)

【略歴】太田高、中央大第二法学部中退。中小企業診断士、行政書士。経営コンサルタント事務所主宰。行政書士・経営コンサルタントの二十五年間に会社設立・開業支援を行った企業は百余社、経営指導は四百社に及ぶ。

中小企業の安定性


◎計画経営の導入が必要

 事業は許可を必要とする場合を除き、自由に開業することができます。しかし、事業を閉鎖することは容易なことではありません。事業継続中の債務の精算ができないからです。事業を安定的に継続していくことが経営者としての最大の責務でありますが、それは資金繰りの安定にほかなりません。

 中小企業の資金調達は、金融機関からの融資が主となります。融資を受けるとき、あるいは商品の仕入れを行う場合、経営者が債務に対する連帯保証を求められます。経営が行き詰まったとき、大企業の場合、会社更生法、民事再生法等の適用が容易に受けられますが、中小企業の場合、それらの法律の適用を受けることは難しく、経営は破綻(はたん)し、経営者は自己破産して悲惨な状態に追い込まれるのが悲しい現実です。

 こうした経営不安を回避し、経営の安全性、安定性を持続するために、計画経営の導入が必要とされるわけです。紙面の都合もあって詳細な紹介をすることができませんので、建設業経営コンサルタントとして、簡単な経営手法を列記します。

 (1)年度経営計画、中期経営計画を作ることです。年間必要売上高を「(目標利益+一般管理費)÷粗利益率」の算式から算出します。これを十二カ月に配分し、同様に配分した一般管理費とから各月の整合性を判定します。こうして出来上がった数値が年度経営計画であり、数値目標となります。この計画表に連動する形で資金繰りを予見することができ、将来の資金過不足を把握することができますので、金融機関との事前折衝が可能となり、金融機関からの信用度が高まり、融資が受けやすくなります。

 (2)設計・積算から営業・工事に至るまで一貫した管理手法を確立し、個別原価管理を徹底すること。特に実行予算の編成を重視すべきです。その上で、建設業界でよく見られる赤字現場の原価をタライ回しし、赤字を隠ぺいすることは厳に排除しなければなりません。赤字現場の事例を教材として活用することができれば、将来の失敗を未然に防止することができ、経営上プラスに転ずることが可能となります。

 (3)現在の経済環境の中にあって、顧客は利益を与えてくれない、ということを銘記しなければなりません。昔からの諺ことわざに「利は元にあり」と申します。製造業・小売業と異なって、建設業は受注産業です。設計、仕様、受注額、工期の定まっている工事を、いかに原価を圧縮して工期内に完成させるかが、利益確保の唯一の方法であることを銘記すべきです。

 (4)俗に「安物買いの銭失い」という諺があります。低賃金をもって優秀な労働力を確保することはできません。徹底した従業員教育により、また、優秀な人材の採用により労働者の資質向上に努め、高賃金、高生産性、高付加価値の実現を図ることが肝要です。

 (5)固定資産の取得は財務体質を悪化させ、資金繰りを圧迫、経費の硬直化を招きます。稼働率等を十分考慮した導入計画が必要です。

(上毛新聞 2004年9月22日掲載)