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サカエ農園主 原 俊幸さん(安中市西上秋間)

【略歴】高崎経済大卒。1968年にJA群馬信連に就職、融資や金融法律相談業務などを担当。2001年に退職し農家に。著書に『リストラにあったサラリーマンが書いた不況脱出の処方箋(せん)』。

日本の食料自給率


◎生産意欲高める政策を

 日本の食料自給率(カロリーベース)は昭和四十年度には73%であったが、年々減少し、平成十年度には40%となり、現在に至っている。これは逆にいえば、食料の60%を外国に依存していることになる。

 この数値は食料安全保障の観点からして危険水域にあるが、日本国民の大方は心配していない。それは、希望する食べ物がいつでも入手可能であるからである。農水省では、平成二十二年度までに自給率を45%とする目標を掲げ努力しているが、実現は困難視されている。政策の具体化が脆ぜい弱じゃくであることと真剣みが足りないように思う。

 日本は国際収支が大幅黒字であり、外貨に心配がない。輸出立国であり、その能力はこれからも衰えることはなさそうである。そのため、「食料などいつでも、どこからでも購入することができる」―このような自負心があるのではないか。

 しかし、次のようなことが起こったら、どう対処するのか。(1)複数の食料主要輸出国から輸出禁止(政治経済戦略ならびに気象異変による生産減などから)があった場合(2)中国等の人口の多い国の輸入増により、世界的に輸出食料が不足した場合(3)日本が極度の貿易赤字国に転落した場合(4)地球の異常気象により、食料不足がグローバルに発生した場合(現在、世界で約八億人が飢餓や栄養不足に直面している)―などである。

 前二者については対外的問題は発生するが、国力で乗り切れる可能性がある。しかし、後二者については食料の調達は困難を極める。

 では「対策は何か」を言及する前に、食料自給率が40%になった原因を究明してみると、国民の食生活の「洋風化」や女性の社会進出に伴う食の外部化等が挙げられる。

 日本人は米を食べなくなり、一人当たりの米の年間消費量は昭和三十七年度に一一八・三キロあったが、平成十五年度には六一・九キロとなり、半減している。また、野菜果実については、食の外部化の中で加工業務用需要が高まっているが、国内生産の対応ができていないのである。

 この論拠からすると、自給率の改善は食生活を和風化(例えば、ご飯を一日二食以上食べる。米の自給率は100%)すること、調理を家庭で行う習慣をつけることなどである。

 しかし、これですべてが解決したわけでない。前提条件となる食料生産に携わる農家と食料生産基盤である耕作農地等の問題を考えなくてはならない。現在、専業農家数の減少、耕作放棄地の増加、農業後継者不足等の問題がある。

 この課題を解決することが自給率の改善に大きくつながる。その解決策は一言でいえば「国の農産物再生産価格の補償」である。農産物の値段が問題発生の源となっているからである。EU(欧州連合)でも米国でも価格補償(農業保護)は前向きであり、補助金も出している。食料は国民の命の源泉であり、また、一朝一夕で生産できる代物ではない。

 農家の生産意欲を高める効果的政策を早期に実行することが、自給率向上につながる。そして、海外依存の体質から脱却し、自国生産自国消費への道にまい進することが大切である。

(上毛新聞 2004年9月25日掲載)