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群馬大学教授(地域共同研究センター) 須斎 嵩さん(足利市本城)

【略歴】足利市生まれ。早稲田大理工学部卒業後、1969年に三洋電機入社。大連三洋空調機公司董事長、環境システム研究所長などを経て、2002年4月から現職。中国ビジネス研究会世話人。

栄枯盛衰のサイクル


◎変化にもっと勇気を

 金メダルラッシュに沸き、体操日本・水泳日本復活とメディアが盛んに書きたて、多くのヒーローが誕生したアテネ五輪であった。

 復活の内容を分析すると、体操団体の金メダル獲得には二十八年を有し、個人種目では金メダル獲得の道のりは、いまだ遠いような気がする。大阪の体操クラブなど一部の組織から多くの体操選手が輩出されるのみで、全国的な広がりが少なく、将来の体操選手を輩出する仕組みには至ってはいない、と考えられる。水泳の方が地域に根差したスイミングクラブから選手の輩出システムが整っているのではないかと思う。まさしくJリーグの今の隆盛は、川口チェアマンをはじめとするリーダーによる地域の基盤作りが功を奏していると考える。

 金メダルが確実であるといわれた野球は、やっと銅メダルを獲得した。長嶋茂雄氏が活躍した東京六大学野球の隆盛と人気はプロ野球にそのまま移り、それから約四十年余り経過し、若い人が熱中するサッカーなどに押され、リーグ再編騒ぎなどもあり、野球人気は高校野球の人気の陰りとともに、一気に影を落としている。

 オリンピックなどで人気の出たスポーツに子供たちは熱中し、同じ勝利を夢見てスポーツに興じ、その中から群を抜く選手が輩出されるのではないかと考える。これからのスポーツの隆盛は、多くの人が参加する地域やクラブからヒーローが出たときに、一気に開花するのではないかと思う。栄枯盛衰の経緯をじっくりとかんがみて検証し、対処することが必須であり、まさしく浮き沈みのサイクル学である。

 このことはスポーツのみに適用されるのでなく、企業寿命三十年説があるように企業組織や商品の隆盛、寿命にも同じことがいえる栄枯盛衰のサイクルがあると思う。例えば、テレビでも白黒テレビが二十五年、ブラウン管・カラーテレビが三十年、現在は液晶、PDP(プラズマディスプレー)の薄型テレビ時代であり、技術イノベーションのサイクルが厳然とある。

 スポーツ、企業、商品そして国の競争力でも、一度首位の座から転げ落ちると、その挽回(ばんかい)には長い年月を要し、間違えば他の組織、他の製品に負け、退却か消滅してしまう。スポーツではヒーロが出ない、事業ではヒット商品が出ないなど、その時々の人の気持ちや環境の変化に対応しない傲慢(ごうまん)さが、徐々に人気や組織の活力を低下し、衰退させる。

 この解決には、その隆盛・衰退の変化を感知し、リーダーや指導者の高い志、使命感、ビジョン、そしてイノベーションのために変化させてゆく勇気を持つことである。温故知新、すなわち故(ふる)きを温(たず)ね新しきを知るという古人の教えには、サイクル学がある。もっと大きな視点でも「歴史は繰り返す」という言葉がある。文明の発祥地メソポタミアのイラクは十字軍戦争、そして今やアメリカとの戦争により国が崩壊していくさまは、まさしく歴史のサイクル学である。

(上毛新聞 2004年9月27日掲載)