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県スポーツ振興事業団事務局長 海野 俊彦さん(伊勢崎市福島町)

【略歴】旧伊勢崎高、日本体育大卒。伊勢崎商高、伊勢崎工高などで陸上競技部指導。県高体連理事長、藤岡高教頭、太田東高校長などを歴任、県教委文化スポーツ部参事を務めた。伊勢崎市陸上競技クラブ会長。

スポーツ施設の役割


◎生活に密着した機能を

 アテネ五輪は、日本選手団による史上最高のメダル獲得という素晴らしい成果を残して閉幕しました。各選手の活躍する姿から多くの感動や勇気を与えてもらいました。選手の活躍を放映するテレビの映像を通して目に映った開会式会場の陸上競技場をはじめ、大規模スポーツ施設の素晴らしさには目を見張るばかりです。壮大で圧倒的な容姿を誇り、そこで繰り広げられる白熱した競技は、ビッグイベントならではの雰囲気を醸し出して高揚した感動を与えてくれています。

 サッカー・ワールドカップ開催のスタジアム等の大規模スポーツ施設は、近代市民社会の宮殿のようなイメージで、スポーツ文化を誇示する機能を果たしつつ、人々の興奮や臨場感、社会性を促す役割を果たしています。

 わが国のスポーツの普及振興を担ってきた国体は「国民に広くスポーツを振興し夢と感動を与える」ことを理念に、都道府県や地域で巡回開催されています。総合開会式場をはじめ、新設された多くの施設が開催地のシンボル的存在であり、当該競技の拠点施設となり、地域スポーツの普及と振興、競技力向上に大きく貢献しています。その国体も本年で五十九回大会となり、一九八八年の二巡目開催からも十六年が経過しましたが、長引く財政の悪化は国体開催にも影響を投げかけています。

 かつてのように国体開催の御旗(みはた)の下、積極的に選手の補強や施設の新設は困難な状況となっております。既存施設のリメイクや仮設施設での対応が検討されるなど、大きく方向転換されつつあります。さらに近年、大型スポーツ施設の膨大な維持管理運営費は財政負担問題としてクローズアップされてきております。

 今後は低コストの維持管理で施設の保全を図り、利用者の安全と利便性を確保することの検討が急務となります。

 スポーツの普及振興、競技力向上の基盤づくりには高水準で本物の競技を身近に見聞することが大切であり、そのためのスポーツ施設の設置はまだまだ必要です。半面、スポーツを通した身体活動の実践により、明るく元気な生活を送るため手軽に取り組める生活密着型の機能を備えた施設づくりも大切です。

 ちなみに、生涯スポーツ社会の実現のための具体的な目標設定は、成人の二人に一人が週一回以上、スポーツを実践することです。これを本県の成人、約百六十万人に当てはめると、約八十万人が週一回以上のスポーツ実践者となることで、身体活動の生活習慣化による健康の維持増進が図れる基盤となります。

 職場や仕事から解放され、家庭から自転車や徒歩で行ける生活エリア内の公園や公民館、あるいは商店街の空き店舗等を利用した身近な身体活動の実践施設の確保や活用が考えられます。大規模スポーツ施設、生活密着型施設とも、その存在の意義を認識して双方に課せられた役割を十分に果たせるように創意工夫して運用することが重要です。

(上毛新聞 2004年10月1日掲載)