視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
音楽家・大泉町スポーツ文化振興事業団理事 川島 潤一さん(大泉町中央)

【略歴】青山学院大卒。2003年に教則本を発表。自己のトリオでNHK国際放送、同FMに出演。音楽クリニックを主宰し、音楽を通じた人間文化を追求している。国内外にミュージシャンの知人多数。

チャプリンと音楽


◎にじみ出る心の温かさ

 サイレント映画時代の「三大喜劇王」の一人であるチャールズ・チャプリンは、主演作のほとんどを自身で製作・監督し、映画史に残る名作を残した。よれよれ背広、山高帽、ドタ靴にステッキという、誰が見ても彼と分かる特徴的なスタイルである。ステッキの素材はフジの木で日本製だった。また、映画に挿入した曲のほとんどが彼の作曲であることを知る人は少ない。

 チャプリンはイギリスのロンドン生まれで、貧しい生活を経てコメディアンとしての頭角を表し、アメリカのハリウッドに渡った。戦争を批判した映画が元でアメリカを追われたこともあった。自分の意志を通すことで、映画を芸術にまで高めた人だ。

 チャプリンは過去に三度ほど来日したことがあり、太平洋戦争直前の五・一五事件に巻き込まれそうになったこともあった。横浜市の山下公園に氷川丸という船が展示されている。当時その船に乗り、約三十日間かけてアメリカに帰った。その際、彼が使った船室が保存されている。また、ハリウッドにあるルーズベルト・ホテルには、ロビーの脇にあるベンチに腰をかけている彼の像がある。

 チャプリンが教えてくれたこと、それは「心の温かさ」であると思う。道化の悲しみからにじみ出る深い愛。彼の作曲した美しい旋律がすべてを物語っていると思う。『シティ・ライツ(街の灯(あかり))』という作品がある。盲目の花売り娘の目を直そうと奮闘するチャプリン。目が見えるようになった娘が、助けてくれたのが彼だと分かる。挿入曲名は「ビューティフル・ワンダフル・アイズ」という。また、映画『モダン・タイムス』のために作曲した「スマイル」は名曲である。

 そして、アメリカを追われたチャプリンが故国イギリスで撮った作品『ア・キング・イン・ニューヨーク(ニューヨークの王様)』では、ストーリーを通してアメリカ社会を痛烈に批判した。この映画の中に挿入した作曲品は五曲で一番多い。ポーランドに侵攻した旧ドイツ帝国を批判した『独裁者』という映画では「フォーリング・スター」を作曲し、『ライム・ライト』には「エターナリー」という名曲を書いた。

 チャプリンの言葉に「知識より思いやりが必要であり、思いやりがなくなると暴力しか残らない。誇りと愛をもって生きることが大切だ」とある。また、「スマイル」という曲には「悲しい時だってつらい時だって、ほほえむだけで希望が持てる、そして自分が輝ける」という内容の歌詞が付いている。

 現代は乾燥している。バランスが失われている。何か大切なことが欠けているなどと、今の時代を性急に評価してしまいがちである。その是非は長い歴史の歳月のあとで理解されると思う。毎日の中で大切なことは、心の温かさ、日々のほほえみではないだろうか。

(上毛新聞 2004年10月2日掲載)