視点 オピニオン21
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創造学園大学教授 大木 紀元さん(東京都品川区)

【略歴】高崎高、武蔵野美術大卒。大学在学中に「ダッコちゃん」を創作し、大ブームをつくる。以来、多くのヒット商品や事業企画を成功させる。県マーケティングアドバイザー。ブルーノ・タウトの会副会長。

ふるさと振興


◎何とかしたい観光立県

 大学卒業と同時に会社をつくり、一年の三分の一は海外も含めて諸国を飛び回っていたが、近年、郷里からの要請もあり、「ふるさとの文化振興と人材養成」のライフワークをフィニッシュするため、月の半分は群馬に足を運んでいる。そのため、ねぐらは東京、高崎、軽井沢に三等分ということになる。

 新幹線通勤だというと、「車中で睡眠がとれていいですね」と言われ、車中や駅頭でもほとんど毎回、どなたかに声をかけられる。

 昔、東海道新幹線の利用が主だったころは、もっぱら個室を利用していたが、群馬への新幹線には個室はない。しかし、電車の時刻に拘束されず、好きな時間に好きな所に乗車できる自由席回数券(指定席にも切り替えできる)で乗車するので、中高年の小グループ旅行者と相席になることも多い。仕事に役立つマーケティング情報や食べ物のおすそ分けに預かることも多い。食べ物の方は適当に遠慮させていただくことが多いが、生きた情報の方は大歓迎。求められれば、群馬の観光情報の提供や昔語りをして喜ばれている。

 たまたま、県の観光課や特別政策本部のお手伝いをさせていただいているので、担当部署からさまざまな情報やパンフレットなどを入手し、常時携帯している。そのため、希望の方にはその場で配布できる。中には宿泊先の紹介を求めてくる方もいて、東京―高崎―軽井沢間の新幹線内は、まさに動く群馬観光サービス事務所の体だ。

 先日も大学の帰途、隣席の女性から、今日はわたらせ渓谷鉄道に乗って「こうべ」(神戸)まで行き、駅が温泉の水沼に立ち寄ってきたと言われ、沿線の見どころや鉄道の歴史などさまざまな質問をもらったが、まず「神戸」駅は「ごうど」と読むことや、国鉄足尾線時代から、さらにさかのぼって銅あか山がね街道時代のカッパ伝説(カッパ伝説絵本を近日発刊、筆者執筆)や、駅で求められたカッパのキャラクター土産「カッピー君」(これも筆者の制作)の解説等々、東京までの小一時間、無料講義。

 この女性は「ぜひまた群馬に来ます」とにこにこ顔で下車されたが、唯一の心残りは小規模鉄道の存続を願うご意見に対して、明確な解答がなし得なかったことである。

 スイスのレマン湖近くの保存鉄道は、アマチュアの鉄道愛好家によって、また、オーストリア・グラーツの保存鉄道は、地元のバスや私鉄のオーナーが採算度外視で運営している。また、よく知られているかわいいウサギのキャラクター「ピーターラビット」の故郷、イングランド湖水地方のナショナル・トラストによる環境保護などは、うらやましい限りだ。

 最近の車中談議はもっぱら「いんちき温泉」で、どこかの温泉では町長の経営する旅館までが井戸水の沸かし湯を温泉と偽って営業していたという。そんな業界に期待するのは無理というものか。企業経営が苦しくなったからと官の支援に頼り、その支援が尽きると切り捨てでは、あまりにも知恵も希望もなさ過ぎる、と思うのは筆者だけだろうか。何とかしないと、観光立県の名が泣く。

(上毛新聞 2004年10月3日掲載)