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ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長 大内 栄さん(桐生市本町)

【略歴】前橋工業短大卒。1984年に「大内栄+空間工房」を設立。本一・本二まちづくりの会役員。ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長。

教育問題県民懇談会


◎取り戻そう共生の心

 先ごろ、学校教育等が抱えるさまざまな問題を検討するため、県教育問題県民懇談会が設置されました。本年度、県内全域で行われた「網の目トーク」による要望がそのきっかけとなり、私たちも工業高校に大工を育成する学科の設置を提案しました。

 日本の木造建築の技術は、その精巧さと美しさにおいて世界で類を見ないほど完成されたものです。それは、豊かな森林に恵まれた気候風土から生まれる多種多様な木材を上手に扱う技術として発展してきました。しかし、その技術がこの五十年間で失われ、結果として森林から出される木材も使われなくなりました。

 戦後、住宅の大量供給を目的とした構法の簡素化と市場経済優先の住宅政策により、早く、安く造れる木造建築が主流となり、地域の職人の手により造られてきた丈夫で長持ちする伝統構法の木造建築は激減し、その仕組みの中で行われてきた後継者の育成も不可能となりました。

 現在、後継者の育成には職業訓練校がその役割を期待され、工務店に就職した子供たちはすぐに訓練校に通うことになります。ところが、木造建築の基本とその心得を身につけていない彼らがいきなり訓練校に来ても、高度な技術を習得することは難しく、教室では技術以前の問題で右往左往しています。しかし、このことは子供たちに問題があるのではなく、大工になりたいと夢を持った子供たちが育つ環境を用意できない私たち大人とその社会に問題があるのではないでしょうか。

 同じようなことが、小中学生を取り巻く環境でも起きています。長崎県の小、中学生による二件の殺人事件は、殺された子供はもちろん、殺人を起こしてしまった子供も、私たち大人がつくった社会の被害者なのではないでしょうか。このような事件を起こさなければならなかった彼らの環境を想像すると、加害者とするにはあまりにも哀れでなりません。彼ら以上に社会人としての自覚がなく、自己中心的なこの国の大人たちこそ、加害者としてその責任を負わなければなりません。

 子供たちの環境はいつの時代にも、その社会と深いかかわりをもっています。現在起きているさまざまな問題の根っこは深く、対処療法によりその環境を改善することは難しく、根元の土壌を入れ替えなければ状況はまったく変わりません。

 そして、その土壌とは今の日本人の心のありようであり、無意識のうちに自己を中心としてすべての物事をとらえる心だと思います。子供のためと言いながら自身の心を満たそうとしている自分に気付かされることがよくあります。日本人が本来持っていた、あらゆるモノへの畏いけい敬と慈しみの自然観を心の底から呼び戻し、共に生きる心、共生の心を私たち大人が取り戻すことから、今回の教育問題県民懇談会を進めていただきたいと願っています。

(上毛新聞 2004年10月11日掲載)