視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
東京経済大学教授 田村 紀雄さん(東京都八王子市)

【略歴】前橋市生まれ。太田高卒。東京大学新聞研究所、カリフォルニア大、中国対外経済大等で研究教育に従事。お茶の水女子大、埼玉大等で講義。東京経済大で学部長、理事歴任。日本情報ディレクトリ学会会長。

読書の秋


◎書籍は人間形成に必要

 秋というと、読書週間とか読書の秋とか、人々に本との付き合いを思い起こさせてくれる。読書というのはもちろん、作家・著述家と出版社という送り手の側と、読者という受け手の側とがあって成り立っている。ところが、これ以外に流通という面倒な部分がある。

 本の流通というのは、食料品や家電製品と異なり、知的な商品、その社会の文化的尺度ということで、簡単にはいかない。その流通も取次(問屋)、小売書店、図書館と、それぞれ役割を持っている。日本と諸外国、それぞれ特色がある。

 欲しい本をすぐ入手するということは、専門書ほど難しい。十数年前、北京の大学で講義していたころ、広東省の一大学出版部が発行した書物を注文した。だが、学期が終わるまで、とうとう手にすることができなかった。

 それなら日本では簡単かというと、それほどではない。近年、とくに街の小さな書店が消えている。代わってコンビニでの販売が増えたが、もちろん本や雑誌の種類は違う。また、大型書店のオープンも目に付く。明らかに、日本の出版物の性格も流通も大きな変化の中にある。

 『ハリー・ポッター』のような例外を除いて、書籍も雑誌も総販売額が減少している。専門雑誌『出版ニュース』によると、過去五年間ともに減少したが、書籍が7・2%減に対し、雑誌は10・7%も落ちた。雑誌は、広告媒体でもあるから、広告収入も減る。日本全体のメディア別の総広告費の中で、伸びているのはフリーペーパーやチラシくらいである。

 このフリーペーパーの伸びが著しいのは、その配布ポストにコンビニが現れたことである。読書に最もふさわしい若者が新聞を購読せず、書籍を買わず、もっぱらコンビニで雑誌を立ち読みし、フリーペーパーをピックアップして、情報生活に事足れりとしているのだ。

 雑誌もフリーペーパーも、インターネットも、重要でないとは言わない。それに適合した情報はある。しかし、書籍の情報は性格が異なる。体系的、論理的、教養的な情報で、深い洞察力や判断力を持つ人間形成に必要なものだ。街から書店が消えていくのをカバーすべき公共・学校図書館もあまりに貧弱である。

 日本の公立図書館へ行くと、その混雑に驚く。日本人の活字好きもあるが、施設が小さく、利用時間が短いのである。夏休みともなると受験生に占領され、高齢者が小さくなって本を読んでいる。

 十数年前、アメリカの人口十万ほどの町に数年住んだ。大きな図書館が三カ所あり、その一つは三百六十五日、二十四時間開館し、まるでコンビニである。高齢者の多いところもある。私は日本のかわいそうな高齢者の一人として、高齢者向けの公立図書館の建設を考えるべきだ、と前から提案している。

(上毛新聞 2004年10月15日掲載)