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(株)ちばぎん総合研究所代表取締役社長 額賀 信さん(神奈川県川崎市)

【略歴】吾妻・東村生まれ。東京大法学部卒。日本銀行に入行後、オックスフォード大留学、経済学修士卒。神戸支店長を経て退職。著書に『「日本病」からの脱出』など。経済誌への寄稿などを通して持論を展開。

観光客の誘致


◎まず知ろう地域のよさ

 昨年は観光立国元年と言われ、以来、観光振興に取り組む動きが各地で活発になってきた。本欄では、観光振興の在り方を何度か取り上げてきたが、本県にとっても観光振興は、いまや地域活性化のために避けて通れない重要な政策課題となっている。そこで今回は、観光客誘致活動の実践について述べてみたい。

 わが国で観光振興というと、これまではビデオやポスター、パンフレットの作成、ホームページへの掲載といった広報活動が中心となっていた。もとより、そうした広報も誘致活動の一部を構成しているが、観光客誘致のために最も必要なことは、地域の責任者が自ら積極的に他の地域に行って、「来てほしい」と勧誘することである。

 そうした誘致活動の必要性について私が認識したのは、観光政策の方法と実際を探るため昨年十一月、スペインへ出張してからである。スペインでは、各地域がそれぞれ工夫を凝らして、多様な誘致活動を実践している。例えば、マドリードやセビリアなどの主要都市では、市の観光責任者と民間の商工会議所が協力して、年間三十回程度も諸外国に出かけ、観光客誘致の努力を続けている。

 誘致活動に行くと、どのようなことになるか想像してみよう。例えば、外国あるいは他の地域に行って、「群馬県に来てほしい」と言うと、必ず具体的にどこへ行ったらよいのか聞かれるだろう。だから誘致活動を始めるためには、来てほしい場所を特定しなければならないのである。

 次に場所を特定すると、そこがどのようによいのかを聞かれるだろう。例えば、景色や史跡や食事はどうか、楽しいことはあるのか、価格は高くないのか、これらのことも必ず質問されるだろう。だから誘致活動を続けるためには、地域のよさを理解し説明しなければならないのである。

 誘致活動は、自分の住む地域を他の地域の人々に知ってもらうために行うものである。しかし、そのためには何よりも、地域の人々自身が自分の住む地域をよく知ることがスタート台となる。地域のよさは、それを知らない人々の質問に答えようとする努力から分かってくるのである。

 そうした誘致の努力を何年か続けてみよう。地域の人々が、自分たちの地域について多くの知識を共有することになるはずである。つまり、誘致活動は自分たちの地域のよさを知り、確認する行動なのである。しかも観光プログラムを組む場合、一つの地域だけでは観光客が飽きてしまうことが少なくない。だから、どの地域とどのように連携を組むか考えなければならないだろう。誘致活動は、近隣地域に対する理解も高めるのである。

 観光振興の基本は、街づくりである。しかし、誘致を続けることが必ずよい街づくりにはね返る。誘致活動の実践こそが、観光振興の中心施策である。本県が誘致活動によって、自分たちの地域のよさを知り、磨き、さらに大きく発展することを期待したい。

(上毛新聞 2004年10月29日掲載)