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農業生産法人あずま産直ねっと社長 松村 昭寿さん(佐波東村田部井)

【略歴】佐波農高卒。75年に就農。2000年、近隣町村の人たちと農事組合法人「あずま産直会」結成。03年に「あずま産直ねっと」を設立し、社長を務める。

自然と農業


◎バランスある発展を

 ああ、何と曇天と降雨の多い年か。空梅雨の後の猛暑、そして記録的な降雨、過去最多となった十個の台風上陸…。自然と農業、気象と経済は密接な関係にある。空模様に一喜一憂しながら、私は悲痛な思いで空を見上げています。

 来年四月で、就農三十年を迎えようとしていますが、農業を通して知り合った友人たちが、九州から北海道までいます。会合などで顔を合わせると、台風を含めた天候の話となり、自然を相手に営みを続ける者として、恨めしさの表れとして口を突いて出てきます。それにしても早く天候が落ち着いてくれないものかと、神にも祈る気持ちです。

 ちまたでは、野菜価値の高騰が話題となっていますが、先月二十日の東京大田市場の市況を見ると、群馬産ホウレンソウ二百グラム(十二本くらい)四百二十円、群馬産キュウリ(五十本)六千三百円、長野産レタス(十六玉)九千四百五十円と天井知らずの勢いで上がっているようです。本来であれば出来秋のこの時期、野に山にと豊富な食材がいっぱいなはずなのに…。

 野では人々が野菜が高いといい、山ではクマがかわいそうなことに食べ物がなく、人里へ現れては人に危害を加えています。その恐れがあると捕獲、または銃殺されたりと、人も動物も何とも悲しいことです。なすすべもなく、ただこの時が過ぎるのを待つばかりで、自然界では人間の存在などちっぽけなものです。

 科学万能と思われる現代も、自然に対しては何ら及ぶべき力(制御)は太古のときから変わっていないように思います。一方で破壊という言葉で表したとき、ここ半世紀の間に随分と負荷をかけてきたことでしょう。

 私の住む佐波郡東村では、就農した昭和五十年には人口一万一千人でした。それが、本年九月現在では二万二千五百人と倍増しました。その間、農地は区画整理がなされ、農業用水も整備され、農地の有効利用や利便性の向上が図られ、生産力も上がったはずです。

 しかし、私の記憶の中にある、あの湧ゆうすい水池ではフナやハヤなどが泳ぎ、用水路ではタニシやドジョウ、カジカも。懐かしい風景が、そこにはありました。それらは河川改修や区画整理によるコンクリート溝によって、今はほとんど見ることはありません。

 月日がたって、農業振興のために区画整理された土地に住宅が建ち、多くの人たちが住むようになりました。新旧住民の混住化が進んで、県内有数の人口急増地域となり、一見豊かな農村となってきたようです。また、その陰で減反政策による休耕田や耕作放棄地が散見されるようになり、そこには空き缶や、投棄されたさまざまなごみも目立ち、バランスのとれた発展の難しさを感じます。

 耕作放棄地などの解消を図るためにも、新規就農希望者を受け入れ、地元農業者と相互扶助の関係を構築することが急務ではないでしょうか。

(上毛新聞 2004年11月5日掲載)