視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
太田市文化協会企画部長 武正 菊夫さん(太田市石橋町)

【略歴】演出家を志し英国へ留学、ピーター・チーズマンに師事。帰国後、劇団「円」を創設。芸術大学講師の傍ら、高校生ミュージカルに尽力。太田市文化奨励賞。

子供の可能性


◎大人が上手にかかわる

 子供たちと一緒にすてきなミュージカルを作っています。きょう七日、太田市学習文化センターで上演するブロードウエー作品「オリバー!」に、小中学生の女の子二十四人が出演します。男の子がいないため、オリバー役もドジャー役も女の子が演じます。まあ、一見男みたいな子供たちではありますが。

 どういうわけか、今どきの子供たちはお姫さまや王子さまをやりたがらず、むしろ、悪い魔法使いとか、いたずらする妖精などを好む傾向にあります。また、そんな役を実に楽しそうに演じるのです。

 毎週火曜日と金曜日の二回、ストレッチ・発声・ダンス・演技と、休憩をはさんでびっしり二時間のレッスンを行います。

 ほとんどの子は、おけいこ事に忙しく、細かくスケジュールが調整されて、お母さんが車で送迎しているようです。週二回のレッスンはきついようですが、舞台に上がり、ちゃんと役者としての存在を示すとなると、一回では無理だと考えています。

 ましてミュージカルは、歌とダンスと演技がバランスよく表現されなくてはなりませんから、指導者の要求も高くなります。

 さて、問題は学年格差と各人のレベル差です。中学生よりも観客へのアピールができる小学生がいても、スポットライトを当てるわけにはいきません。そこには彼女たちの暗黙の了解があり、先輩より前に出ようとはしません。プロの劇団であれば、このような配慮は無用ですが、アマチュアにはアマチュアなりのカテゴリーが存在して、多分に教育的な香りを放っているのです。

 次に同世代での実力差ですが、役者の難しさは、スポーツのように、努力すれば報われる、というものではないという点にあります。声のいい子はさほど努力しなくても、歌の心をつかんでしまうし、苦手な子はかなり努力しても思うようになりません。

 また、ダンスや演技でも、指導者の意向をすぐのみ込む子とぼんやりしている子が見受けられ、配役に苦しむところです。

 頼りになるのは、インストラクターとして協力してくれる高校生です。幸いなことに、地元の太田女子高音楽部は、定期演奏会にミュージカルを取り入れて十六年の歴史があり、その本格的な舞台作りが、毎年大勢の観客を魅了しているのです。子供たちにとっては、あこがれのお姉さんであり、身近な存在でもある高校生が真剣に振り付けしたり、歌ったりするのを熱心に学ぶのです。

 気持ちの落とし所をよく見ていて、いいタイミングで声かけると、ぱっと反応するので、見逃さなければ連帯意識も発露して、ぐんと全体のレベルを押し上げます。

 子供の可能性は無限といわれますが、私の見た限りではそうは思えず、随分早い段階で自分の形を持ってしまうようです。ただ、大人たちが上手にかかわると、大きな可能性の窓を開けるかもしれません。

(上毛新聞 2004年11月7日掲載)