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弁護士 神山 美智子さん(東京都港区)

【略歴】伊勢崎市生まれ。伊勢崎女子高、中央大法学部卒。65年に東京弁護士会に登録。03年4月から「食の安全監視市民委員会」代表。

BSE対策


◎もっと慎重に検討を

 今年九月、食品安全委員会が国内BSE(牛海綿状脳症)対策について、リスク評価を公表しました。食品安全委員会(以下、委員会)は、昨年五月に成立した食品安全基本法に基づき、同年七月、内閣府に設置された独立の機関で、食品摂取による健康影響の有無と程度を審査するところです。

 BSEのリスクとは、感染牛を食べることにより、人が変異型クロイツフェルト・ヤコブ病に感染する恐れのことです。ヤコブ病は脳がスポンジ状になり、急速に痴呆(ちほう)が進む悲惨な病気です。委員会の評価では、イギリスで約百万頭の感染牛に対し人への感染は五千人、日本では感染牛五―三十五頭、人は〇・一―〇・九人と推計しています。

 そして、この報告の中に「二十カ月以下の若い牛で感染牛を確認できなかったことは、今後のBSE対策検討上、十分考慮に入れるべき事実」と記載してあることを受け、米国産牛肉についても、二十カ月未満ならただちに輸入再開できるという記事が、マスコミ各紙にあふれました。

 委員会は、この報告書は国内BSE対策に関するもので、アメリカ産牛については情報が少なく、対策が十分かどうかなどの評価は到底できない、この報告と輸入再開とは無関係―とはっきり言っています。

 同時に、検査法については今後とも改良が行われるべきだとも書いていますし、特定危険部位除去の徹底と処理場での汚染を防止するため、適正な実施が保証される仕組みを作るべきだとも求めています。特定危険部位とは頭部、脊髄(せきずい)、脊柱(せきちゅう)、回腸遠位部(小腸の末端)のことで、異常プリオンの99%以上が集中しているとされています。

 また、委員会は国内対策に対する評価で、検査コストの問題も消費者の安心という観点も考慮しなかった、と言っているので、これから生産者や消費者も交えて、コストと安心について幅広い議論がなされなくてはならないはずです。

 幸い日本では、牛由来のヤコブ病は一例も発見されていませんが、薬害ヤコブ病では百例近い世界最大の被害者を出しています。薬害ヤコブ病は、頭の手術で硬膜移植を受けた患者が異常プリオンに感染したものですが、ドイツから輸入した汚染乾燥硬膜が原因でした。アメリカは一九八七年に輸入を禁止しましたが、日本が禁止したのは、WHO(世界保健機関)が使用中止を勧告した九七年以後のことだったのです。

 裁判所で和解が成立した二〇〇三年三月、厚生労働大臣は過去における国の対応に不十分な点があった、とする反省と謝罪の声明を出しました。

 食品安全基本法と食品安全委員会は、BSEを予防できなかった失政の反省から生れたものです。全頭検査は本当に無駄なのか、若い牛の検査を止めるとどれくらいコストを下げられるのかなど、もっと慎重に検討してほしいものです。

(上毛新聞 2004年11月9日掲載)