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日本政策投資銀行理事 深谷 憲一さん(東京都世田谷区)

【略歴】前橋市生まれ。前橋高、京都大法学部卒。71年に運輸省入省。同省航空局長、海上保安庁長官などを経て退官。現在、日本政策投資銀行理事。

「日本海」呼称問題


◎政府の認識は遅すぎる

 日本海呼称問題というのをご存じだろうか。どういう問題かというと、放置しておくと、いずれ世界の地図上から「日本海」という名前が消えてしまうかもしれない、という話である。

 事の発端はこうである。一九九二年に開催された第六回国連地名標準化会議の場において、韓国代表が「『日本海』という名称は日本の植民地政策などの結果、押し付けられた名称であり、当該海域は『東海』と呼ばれるべきである」と突然主張し出したのである。以来、韓国はさまざまな国際の場において、公式、非公式、水面下も含め「東海」キャンペーンを張ってきていたのである。

 わが国は、韓国の主張の論拠が全く事実に反するものであり、まともに取り合う必要もないとして、むしろ静かな対応をとってきた。その結果、わが国の大半の人はそうした事実すら知らなかったのである。

 「日本海」という名称は歴史的には一六○二年のヨーロッパで作製された地図に最も早く表れ、十八世紀末から十九世紀初めにかけてヨーロッパで作製された地図の上では単一名称としての「日本海」が既に定着していた。江戸時代末に至るまで長い間、鎖国政策をとってきたわが国が植民地主義的政策として「日本海」という名称を他国に強制できたはずもないのである。しかし、十年余の韓国のキャンペーンにより、「日本海」という名称が国際的に揺らいだ。

 わが国を含む七十四カ国が加盟する「国際水路機関」(本部・モナコ)では世界の海図のガイドラインを作成してきているが、一九二八年に作成された初版ガイドライン以来、「日本海」という単一名称が使われてきていた。しかし、二○○二年夏、最新改訂ガイドライン案では「日本海」という名称が消え、その部分が白紙として世界各国に示された。理由は、当該海域の名称について国際的な論争があるから、というものであった。

 日本政府はもちろん、これに大抗議をし、取りあえず、その白紙案は撤回してもらった。翌年、アメリカの雑誌『ナショナルジオグラフィック』が朝鮮半島特集を組んだとき、同誌が付録として付けた地図には「東海」(英語版)と表記されていた。日本語版も出されており、これには「日本海」と単一名称だけが記されていたので、日本の読者の大半はオリジナルの英語版では「東海」と記されていたことを知らない。

 これらは事例の一部にすぎないが、われわれ日本人の大半が知らない間に、「日本海」という名称が消える方向へ国際的に進行していたのである。このままでは、いずれ地図上から「日本海」という名前が消えてしまいかねない。ようやく最近、日本政府も事の重大性を認識し、動きを強めているようだが、いかんせん遅い。国際関係の中での無用の軋あつ轢れきは避けるに越したことはないが、必要な軋轢は覚悟することも大事である。かえって事が大きくなり、取り返しのつかなくなることもある。

(上毛新聞 2004年11月25日掲載)