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群馬ホスピスケア研究会代表 土屋 徳昭さん(高崎市中居町)

【略歴】小諸市出身、群馬大工学部卒。県内高校に28年間勤務、現在伊勢崎工業高教諭。88年の群馬ホスピスケア研究会の設立に参加し、以後代表を務める。

緩和ケア


◎最期まで尊厳持ちたい

 初秋の吾妻町を訪ねました。第十回「群馬緩和医療研究会」に参加するためです。県内の緩和医療に携わる医療従事者(医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、各種療法士等)が年二回、日ごろの臨床経験や情報の交換、職員の資質向上を目指して研修している会です。もちろん、一般市民にも開放されているので、会費さえ払えば誰でも自由に参加できます。

 「緩和医療」が正式に国の医療システムに導入されたのは一九九〇年。あれから十四年たちました。今年十月現在、全国には百三十八施設、二千六百八床の緩和ケア病棟が整備されるに至っています。数県を残して、すべての県に緩和ケア病棟が存在するようになりました。

 県内では九四年、独立行政法人西群馬病院(当時の国立療養所西群馬病院)に全国的にも先駆けて緩和ケア病棟が開設されました。しかしその後、病棟の建設はありませんでしたが、来年には富岡総合病院に開設されるという明るい情報があります。

 さて、本県の人口動態統計によると、がん(悪性新生物)による死亡は依然第一位で(〇二年四千八百人、約28%)、二位の心疾患(二千六百人)を大きく超えています。県内の緩和ケア病床は患者さん二百人に一床、全国平均でも百人あたり一床という現状ですから、緩和ケア病棟の数はまだまだ十分とはいえません。

 当日、十二題の発表はどれも興味深いものでした。中でも伊勢崎市民病院の緩和ケアチームからの「緩和ケアを受けられた方へのアンケート調査」というレポートに注目しました。「緩和ケアチーム」というのは、〇二年の診療報酬改定で新たに認められたものだそうです。一定の条件(専任の医師、緩和ケア教育を受けた専門看護師、精神科医など)が満たされたスタッフによってチームを組んで、一般病棟において緩和ケアができるシステムです。それにより、一日あたり二千五百円の加算が認められるというものです。

 現在、伊勢崎市民病院、富岡総合病院がこの制度を生かして緩和ケアチームによるサポートを実践しているほか、利根中央病院でも独自の取り組みを進めています。

 このアンケートは、チームサポートを提供した百人を超える患者さん、その家族へのものでした。回答は約六割、そのうちの六割は「緩和ケア」という言葉や内容も知らずに主治医の勧めで受けていたということでした。また、およそ半数の方は「受けてよかった」と答えています。その中身としては、「よく話を聴いてもらえた」「痛みをとってもらえた」が最も多く、緩和ケア医療における本質が現れているように思います。

 近代ホスピスの母と言われたシシリー・ソンダースさんが最近亡くなりました。女史は「一時の優しい笑顔より、一服のモルヒネを」とスタッフに言い続けました。つまり、強い痛みを感じているとき、人は心穏やかに安定した精神状態ではいられないということを、分かりやすく説いたのでしょう。緩和ケアとは、痛みから身体を解放し、その上で心の苦しみ、悩みに真しん摯しに向き合い、最期まで尊厳を持って一生を全うできることをサポートする医療なのです。

(上毛新聞 2004年12月9日掲載)