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君津市国保小櫃診療所所長 提箸 延幸さん(千葉県君津市)

【略歴】前橋市内の病院に20年勤務し、その間、アフガニスタン、アフリカなどで医療救護活動に携わる。近著に「写真で見る海外紛争地医療」(医学書院)がある。

国際援助と首相


◎はっきり言ってほしい

 援助活動に関心を持っていると言っても、援助交際ではなく国際援助です。

 イラクから来たムハマド君という少年が、都内の病院で目の治療を受けています。彼は米軍と武装集団との戦闘に遭い、失明の危機にひんしていましたが、ジャーナリストの橋田信介さんが彼を知り、救援活動が始まりました。橋田さんは凶弾に倒れたものの、遺志を継いだ夫人たちが医療支援を継いでいます。

 この話題についてインターネットで検索すると、さまざまな意見があって考えさせられます。例えば「イラクにはモハマド君と同様な悲惨な境遇の少年がたくさんいるのではないか? 美談の影でイラク戦争の持つ問題が隠れてしまう」という趣旨の批判も見られました。

 なるほどと思う一方、私は国際援助活動においては、巨大NGO(非政府組織)から個人レベルまで、さまざまな態様があってよいのではないか、とも考えました。百貨店では売らない特異な少量の商品も、専門店では可能なことに通じます。

 イラクの眼科医療を知りませんが、私の知るアフガニスタン(以下アフガン)の眼科では、眼(め)の解剖図が壁にあるだけの寂しい診察室でした。日本の茶髪の研修医なら「ウッソー」と驚くかもしれませんが、眼科医の診察道具は唯一、小さな懐中電灯のみです。こんな医療環境はアフガンに限らず、発展途上国や略奪に遭った紛争地の病院に行けば、大同小異と思われます。医師の月給が二―三万円の国で、数百万円の診療機器を備えられるはずがありません。

 ちなみに私の関与した国際的な組織の基本方針は、個人の救済より地域住民、また援助効果の持続する事業を優先しておりました。

 話題は転じますが、NGOやODA(政府開発援助)の活動現場には支援団体のロゴや援助国の宣伝が見られます。パキスタンかタンザニアの首都か、記憶が不明確ですが、そこには中国の援助で造られた立派な道路があり、「中国友好道路」といった巨大な看板が立っていました。日本のODA援助の中には、貿易不均衡の緩和や捕鯨委員会での支持をほのめかすものもあるでしょうが、「援助など知ったことか」とばかりに援助国を逆なですることなど、夢にも思いません。

 ところが、有人宇宙衛星を飛ばす中国へのODAは悩ましいものがあります。最近の日中首脳会談では、中国首相から「ODAは戦後賠償の代償であり、中止すれば不測な事態が起きる」とくぎを刺されています。それなら、小泉首相も「日本の領海や排他的経済水域での潜水艦や調査船の活動を中止しないのならODAはやめる」と反駁(はんばく)するべきと思いますが、唯々諾々と応じています。

 国内では三位一体改革をこわもてに説く人が、海外では内弁慶に変身するのでしょうか? ムハマド君を報じた紙面の片隅にタレント、志村けんさんの自宅に泥棒が入ったとの記事が。志村さんは白粉(おしろい)顔の「バカ殿」で人気を博しました。私は日本の運命を託す政治のリーダーが「バカ殿」とは思いませんが、内外を問わず言うべきことは、はっきりと言う人であってほしい、と考えています。

(上毛新聞 2005年1月8日掲載)