視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
専門技術員(県担い手支援課) 清水 千鶴さん(藤岡市鮎川)

【略歴】藤岡女子高、群馬女子短大卒。県生活改良普及員として各改良普及センター勤務を経て現在、県農業局担い手支援課勤務。途上国支援交流も実施。

「加工本」が受けるわけ


◎より多くの人に正確に

 農村には、農業や生活で培った優れた技術を持った方が各地にたくさんおられます。残念なことに、高い技術を持っている高齢者に「これをどのような分量で漬けましたか」と尋ねても、「手加減だから、いいかげんだよ」と返ってきました。また、ある方は「毎年同じように作ったつもりでも、上手にできる年と駄目な年がある」と答えました。私の職場であった農業改良普及センターには、時季ごとの加工品の作り方、例えば、梅の漬け方からみその作り方までの問い合わせが寄せられました。

 どんなに優れた技術を持っていても、それを多くの人に、より正確に伝えるには、「記録」は大切な手段です。分量を数値化し、マニュアル本にすれば、次世代へもつなげることができます。ぜひ、「加工本」を作ろうという思いが一つになりました。農家や試験場の方に協力をいただき、生活関係普及員と専門技術員が二年かけて編集し、平成七年に本県版の加工本『手づくりを楽しむ ぐんまの農産加工』を県農業改良協会から発行しました。

 県産農産物を利用した加工品二百余点を掲載した本書は六千冊発行しましたが、一カ月で完売。その後、購読希望者が多いため、二千部ずつの再発行を数回繰り返すことになりました。しかし、今なお毎日のように出ているのは、なぜなのでしょう。

 この本の特徴は、加工の基本的な技術や伝統的、経験的なものをできるだけ科学的に表すこと、それも家庭で作りやすい単位としたこと、作り方は初心者にも分かるような表現とし、活字を大きくするなどの工夫を凝らし、「群馬の食」に対するこだわりとしました。八十歳近い料理好きな私の母は、それを日々活用し、今では初版がボロボロ状態ですし、私自身、技術指導用のテキストとして活用してきました。

 ここ数年、農産加工技術を持つ県農村生活アドバイザーや生活研究グループ員らが、小中学生や幼稚園児の親を対象として、栽培から調理、加工の技術指導や、都市生活者を招き農村生活を体験する「グリーンツーリズム」活動などを各地で実施してきましたが、そのニーズは増える一方です。

 今日の農村も核家族傾向にあり、伝統的なおばあちゃんの味や行事食を食べたり伝える先がなくなってきた半面、「自分のしゅうとめから教えてもらうのはイヤだが、郷土料理は覚えたい」という若い世代も多いのです。「食生活指針」でも、食文化や地域農産物を生かして…とありますが、まさに、その実践者であり指導者が農村女性や高齢者です。

 今や「健全な食生活は農村にあり」といっても過言ではなく、豊かな経験と技術を持っている農村の方は、外に向かって語り伝えていただきたい。前述の加工本も残部が数百冊となり、再版予定はないので早期にCDに落とし、農村リーダーのテキストとして、また若い世代のマニュアル本として活用できるようにしたいと思っています。

(上毛新聞 2005年1月11日掲載)