視点 オピニオン21
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元書店役員 岡田 芳保さん(前橋市元総社町)

【略歴】群馬町生まれ。長年にわたり書店煥乎堂に勤務。常務を務めた。企画展などの実績でNHK地域放送文化賞受賞。詩や書にも取り組む。号は住谷夢幻。

詩人・麓惣介(下)


◎響き合うイメージが

 詩人、麓(ふもと)惣介さんは、いつも落日を胸に抱いていたように思う。
 
  山村の
  土壁に
  消えのこる
  まぼろしの
  古きいのちの
   きずあとの
  ひるがえる旗
  ばつや
  丸
  星に
  陽ひに
  女のもの
  男のもの
   さても
  八階の家
  鬼に金棒らしき
  へのへのもへじ
  三足す四
  はしるのは
    犬か
    狐(きつね)か
  いろはに
  ほへと
   ちりぬる
    をわか
  まさこ
  かずお
  ばか
   など
  これら
  この
  黄昏(たそがれ)の
  黄昏の
  うすれゆく
  曼陀羅(まんだら)
 
 僕たちが、かつて遊んだ村の壁の落書きが、夕日に匂(にお)う土壁がここに描かれてあるではないか。色彩豊かで、ノスタルジアに満ちているではないか。大人が読んでも子供が読んでも浮かび上がって響き合うイメージがある。

 麓惣介さんには、手作りの詩集(和綴(と)じ形式)が百二十三冊もあり、麓惣介の詩の宇宙を形成している。そのほか、翻訳、小説、評論があり、見事な詩画集もある。そして、詩人麓惣介さんは優れた画家でもあった。絵画作品も詩のような世界が描かれている。見れば立ち止まって動けなくなるのだ。

 作家の小島信夫さんが講演に来たとき、麓惣介さん宅を訪ねたことがある。小島さんいわく。「山田君はね…岐阜の天才と言われた男ですよ…。発表しないのが惜しいね、なぜなの」

 詩人は、寝ころびながらいわく。「小島さん、何であんなに書くの、書き過ぎだよ。みっともないね、へへへ」

 僕は思わず二人の顔を見た。二人の目は許しきって、心の襞(ひだ)に分け入るかのように微笑していた。

 麓惣介(本名・山田継雄)。一九二〇年、岐阜県生まれ。東京文理大学英文科卒。その後、山形大学、群馬高専、群馬大学、育英短期大学等々に在職しては依願退職した。引っ越しも数十回している。一九五二年(三十二歳)「同時代」に参加、創作を発表する。矢内原伊作、小島信夫、宇佐美英治、宗左近等がいた。一九七四年「ランダムハウス英和大辞典」編集の責任者であった。二〇〇二年、心不全にて逝く。ひっそりと本人の念願の通り、永眠。享年八十二歳。

 祭あつめつくしてこの夕焼けか

(上毛新聞 2005年1月18日掲載)