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農業生産法人あずま産直ねっと社長 松村 昭寿さん(伊勢崎市田部井町)

【略歴】佐波農高卒。75年に就農。2000年、近隣町村の人たちと農事組合法人「あずま産直会」結成。03年に「あずま産直ねっと」を設立し、社長を務める。

中国農業を視察して


◎今こそ消費者と連携を

 昨年は、夏から秋にかけての高温や、十個にも及ぶ台風上陸等による農産物、特に野菜が受けた被害は多大なものがありました。葉菜類、果菜類、ほとんどの野菜が異常なまでの高騰を続け、消費者、生産者の経済を直撃。アメリカや中国等から緊急輸入された野菜は、今までの恒常的な部分も含めると、対前年比で二―十五倍にも達しました。

 そんな折、昨年十二月初旬に中国農業の対日輸出野菜の生産現場を見る機会に恵まれました。上海と、そこから二百キロほど離れた浙江省抗州市近郊での状況を記してみたいと思います。

 上海の農場は、旧人民公社時代の施設と農地を引き継ぎ、全土に四カ所、総面積は二千ヘクタールもあります。作付面積でネギ六百ヘクタール、キャベツ五百五十ヘクタール等を作り、緯度差を利用して北から南まで、リレー的に計画作付けしています。年間総売上額は五千万元(六・五億円)にも達する巨大農場で、そこで働く労働者の多くは内陸からの出稼ぎ農民です。月収は千元(一・三万円)ほどで、中国で最も発展した大消費地、上海の平均的な額だそうです。

 しかし、一般的な農民のそれは約五百五十元で、全国平均では二百十元ほど。都市部と農村部では、約二―五倍の格差を生じているとのことでした。

 今、全土で農地の利用権の集積を行い、大規模化を図り、外資(台湾、日本)との合弁で輸出を促し、将来的には国内の食料増産体制の確立をも視野に入れた農場育成が急速に行われているようです。

 抗州で訪れたブロッコリー生産農場では、二〇〇二年に発生した冷凍ホウレンソウの残留農薬問題の教訓を基に、パソコンによる圃場(ほじょう)管理、農薬保管・使用管理等が行われ、トレーサビリティーが普及していました。

 その一方で、無農薬栽培と言っていたオオバの圃場では農薬の使用痕跡が見られ、担当者に問いただしたところ、使用を認めたり、有機栽培茶園で、農薬の空き瓶や袋を発見したりと、疑わしきものも散見されました。

 昨年六月には、上海で有機リン系農薬による食中毒事件が発生したり、抗州ではスーパーで売られている野菜の三割近くから基準値以上の残留農薬が検出されたりもしています。

 しかし、大規模化された輸出企業では、ISOの取得、HACCP認証等により環境や食品製造リスクを排除し、国からの認証がなければ輸出できないことから、官民一体となって日本向け野菜の生産が、政策的に行われています。これらは日本からの栽培技術や種子を含めて、日本商社等の強い意向を受けた開発商品として、日本国内へ入ってきています。見た目の品質は同等ですが、味や手に取った感じでは日本産の方が勝っています。

 今こそ私たち農業者は消費者と連携を図り、安全でおいしく、永続的かつ安定的な食料生産に努めなければと再認識しました。農業の場面でも、内と外を含めた産地間大競争時代が激しくなると感じた中国訪問でした。

(上毛新聞 2005年2月8日掲載)