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弁護士 富岡 恵美子さん(高崎市上和田町)

【略歴】中央大卒。71年に弁護士開業。01年まで群馬大講師。現在、県女性会館女性相談支援室長、日本ジェンダー学会理事。女性の人権問題などに取り組む。

DV被害母子


◎自立支援できる社会を

 ドメスティック・バイオレンス(DV)は、妻の心身を深く傷つける。

 でも、夫の暴力に苦しみながら、妻は「子供を片親にしたくない。私さえ我慢すれば」と、子供のために一人で耐えていることが多い。

 では、DVを我慢することが、子供にとって本当に幸せなのだろうか。

 事例1 「お子さん、チック症ですね」と言われました。この子の行動が、チック症なんていう病気のようなものだとは思わなかった。単なる一つの癖だと思っていたんです。子供は家を離れてから、それが全くなくなりました。

 事例2 子供に向かうような暴力はなかったので、「とにかく、私が我慢するしかないなあ」と思っていました。ところが、今になってから、うちの子供が「実はもう、自殺まで考えていた」と言うのです。子供は子供で、かなり精神的に参っていたみたいです。

 事例3 夫の暴力は、結婚前からです。「結婚すれば」「子供が生まれれば」と、暴力がなくなることを期待して、一人で我慢してきました。でも、暴力はひどくなるばかり。とうとう子供が「パパを殺ってやる」と、口走るようになった。

 事例4 子供(小学生)とご飯を食べていたら、主人が帰って来て、いきなり「こんなもの食えるか。俺のメシはないのか」と怒り出した。慌てて「すぐ作るから」とキッチンに行こうとしたら、け飛ばされ…。こんなことはしょっちゅうだけど、子供がいるので、別れるなんて考えたこともなかった。「夏休みに、どこに行きたい?」って子供に聞いたら、「おじいちゃんちがいい。この家出たい」と言われて、びっくり。子供の気持ちが分かって、家を出る決心しました。

 DVの夫は、妻だけでなく、子供にも暴力を振るうことが多い。でも、直接子供に暴力を振るわなくとも、暴力を目撃するだけでも、子供にとって虐待なのである。

 だが、心の傷は分かりにくい。思春期になって、不登校や引きこもり、拒食・過食の繰り返し、親に対する暴力など、顕在化してからでは傷の回復も容易でない。

 大切なことは、子供を虐待から守ること、つまり、DVという暴力のない環境で子供を育てることなのだ。

 それには家を出、新たな生活を築こうとするDV被害母子を、社会で支援しなければならない。今、一時保護や当面の安全確保は一応できるようになった。だが、肝心の住居や就職は、相変わらず厳しい。所持金の乏しいことも多く、住居と一カ月分の生活費さえあれば自立できるのに、と悔しい思いも度々ある。だからこそ、県営住宅のDV母子優先入居や、民間住宅入居時の権利金等の補助などをして、自立を支援してほしい。

 「子供を育てるなら群馬県」という本県こそが、DV母子をしっかり支援して、子供虐待防止も図るよう期待している。

(上毛新聞 2005年2月18日掲載)