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群馬大学学長 鈴木 守さん(高崎市石原町)

【略歴】静岡県出身。千葉大医学部卒。東京大助手、東海大助教授を経て76年群馬大教授。同大医学部長、副学長を歴任、03年から現職。専門は寄生虫学。

大学と地域経済


◎金融界との連携も必要

 法人化した大学が果たすべき機能は、教育・研究にあることに変わりはないが、新たに地域貢献という使命が加えられた。大学が地域経済に確かな役割を担っていることが明示されれば、大学の地域貢献は一般的に理解されやすい。

 大学は存在しているだけでも、地域経済に相当な貢献をしている。群馬大学の本年度の総予算は約三百五十六億円である。これは、大学を一つの市と考えると、県内六番目の市に相当する予算である。この予算の中の百四十七億円は、医学部附属病院の収入である。附属病院は最近装いを新たにしたが、その建設費は財政投融資という仕組みによる借入金で賄われているため、附属病院は毎年三十億円の借金を返済し続けている。

 病院収入は、年度末になると完全に使い尽くされ、手元に残る資金はない。病院長以下の財務管理担当者は、大幅な赤字にならなければ胸をなでおろすという光景が毎年繰り返されている。群馬大学に附属病院がなかったとしたら、県や前橋市は百五十億円の資金を毎年用意して県民、市民の健康を守らなくてはならないということになる。

 群馬大学に在籍する学生の数は大学院生を含めて約七千人、教職員数は約千七百人であり、これらの生活費もかなりの金額になる。地域に大学があると、専門家による会議すなわち学会も地元で行われることになる。昨年四月に開催された、約四百人の参加者による小規模学会の地域経済効果(平たく言えば、地元に落ちる金はどのくらいか)を前橋コンベンションビューローに試算願ったところ、約三千万円という結果がでた。同様に、昨年五月に開催された日本臨床アレルギー学会は、参加者が約千七百人で、その経済効果は三億円に上ることが試算された。このことから、学会開催は決して専門家だけのイベントではなく、地域に一定の経済効果をもたらしていることが分かった。

 しかし、以上の事柄だけで「大学は経済的に地域貢献している」という主張はできない。大学は、社会に次の地域経済の基を創生し、地域に提供して初めて地域経済に貢献をしていると認められる。現在、群馬大学では地域産業との連携を強化し、大学の持つシーズ(種)を産業界の求めるニーズ(要望)と結びつける試みが数多く実施されている。大学の知が革新的技術を生み、地域産業が飛躍的に発展する例も近い将来見られることであろう。

 大学の貢献として進める地域経済の活性化のためには、地域の大学と産業界との連携のほかに、地域の金融界との連携も必要である。「産官学」に「金融機関」が加わった体制こそ新しい革袋に新しい酒が入った連携であり、「知を基にした経済社会」の具体的な実現の発進となる。昨年、県下の金融機関代表者とこの問題について話し合ったところ、一様に前向きな姿勢を示してくださった。金融界が大学の知およびそれと連携する産業に積極的に踏み込むことは、金融機関にも新しい理念・方向性を醸成することになり、大学の地域経済に果たす役割も、現在よりもさらに分かりやすい姿をとって地域住民に理解されるであろう。

(上毛新聞 2005年2月23日掲載)