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「21世紀堂書店」経営 峰村 聖治さん(高崎市八千代町)

【略歴】早稲田大卒。書店経営の傍ら、子供の将棋教室を開く。店舗半分を改装した無料の貸しギャラリー「あそびの窓」を開設。元高崎市小中学校PTA連合会長。

カンボジアの幼稚園で


◎1本のクレヨンに喜び

 妻と二人でカンボジアに行ってきた。空港に迎えにきた娘はやせてはいたが、元気だった。彼女は、世界遺産に登録されたアンコール遺跡群で有名なシュムリアップという小さな町のアンコール幼稚園で、青年海外協力隊員として活動している。

 カンボジアの朝は早く、七時を過ぎると子供たちは親の運転するバイクに四人乗り、五人乗りで幼稚園に集まってくる。気が付くと、元気のよい子供が三、四人、私の所へ近付いてきた。そのときの笑顔がすてきだった。もちろん、日本にも笑顔の素晴らしい子供はいっぱいいる。でも、どこか違う。

 ある教育学の先生が「子供のいい笑顔は“十分な睡眠”と“群れていること”が大切」と強調されていたが、納得できる。カンボジアでは現在でも電気は高価であり、この国の子供たちのほとんどが夜は早く寝て、朝は日の出とともに起きる。つまり、早寝早起きで睡眠は十分であり、塾もテレビゲームもない子供たちは、群れて遊ぶことが日常生活なのだ。

 園児は約三百人で八組に分かれており、園長以下十五人の先生がいる。シュムリアップ州のモデル幼稚園だが、ポルポト時代以前からある個人の邸宅を使用しているので建物は古く、狭い教室では園児が窮屈そうに椅い子すに座っている。電気のない教室は昼間でも薄暗く、雨季になると雨漏りもする。

 資料によると、カンボジア人の一人あたりのGDP(国内総生産)は日本の百分の一以下で、教育省から幼稚園には全く予算が出ない。一人当たり年間一ドルの授業料も兼ねた入園料のみで運営されているので、絵を描く紙やノートが不足し、鉛筆一本が貴重だ。

 昨年、彼女からクレヨン(使いかけOK)や鉛筆、消しゴムなどを送ってほしいとの手紙が届いた。さっそく、友人、知人に声をかけたところ、五十人以上の人から品物が集まった。

 クレヨンの時間は、八組一斉に行われた。「カンボジアでは、普通の子供が日常生活の中でクレヨンを使うことはめったにない。週一回のクレヨンの時間に、一本のクレヨンを持つことが喜びなのだ。ふだん落ち着きのない子供が夢中になっている」と、彼女は言う。机のない教室で床に座り、椅子を机代わりにして色を塗っている子供の無心な姿に心打たれた。高崎から送ったクレヨンが今、ここで使われていることが、とてもうれしかった。

 授業に紙芝居を取り入れた彼女は、難しいクメール語(カンボジア語)を使いながら、はつらつとしてエネルギッシュだった。彼女は言う。「遊び(ゲーム)を通した授業を心掛けるが、この国のゆったりとした国民性を尊重しながら、授業方法を強制するのではなく、先生方に幼児教育の大切さが伝われば…」と。

 なお、今月十八日のテレビ東京の番組「仲村トオルの地球サポーター」(午後九時五十四分から)で、彼女のカンボジアでの活動が放映される。

(上毛新聞 2005年3月13日掲載)