視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬昆虫学会員 村山 聡則さん(前橋市南町)

【略歴】南九州大卒。大学在学中に昆虫の研究に目覚め、九州南部の離島でクワガタムシの新亜種を発見した。会社勤務の傍ら、自然観察指導員としても活躍。

島の小学校で


◎自然科学に目を向けて

 長崎のある島で生活をしていたころ、カブトムシの夏休み研究が縁で知り合った婦人がいて、小学校で話をしてほしいという依頼を受けた。島には二つ小学校があり、生徒はそれぞれの集落からバス通学している。正直、話すことは苦手だし、小学生を対象に話をしたことがなかったので、断ろうかと悩んだ。しかし、知り合いの小学生に、「ぼく、楽しみに待っているから」と言われてしまい、後に引けなくなってしまった。

 いろいろと考えた末、当日は島でも使えるわなの作り方やカブトムシ、クワガタムシの簡単な採り方を話した。子供たちの表情は真剣そのもの。話の途中で「分からなかった人、質問のある人?」と聞くと、必ず誰かが手を挙げるのだ。手を挙げるのは男の子も女の子も関係ない。そして、スズメバチが樹液にいた場合のクワガタムシの採り方、逃げ方などは絵を描いて説明した。

 最後に、最近輸入が解禁になった外国産のアトラスオオカブトと日本のカブトムシで相撲を取らせた。対戦前に、小学生にどちらが勝つか聞いてみると、圧倒的にアトラスの方が多かった。それもそのはず。かっこ良さからいえば、どう見てもアトラスだ。「あれぇ、日本のカブトムシを応援する人はいないの?」というと、小学二年生の女の子が一人、手を挙げた。「そっか、勝つといいね」。そう言った私も、本音はけんか早いアトラスが勝つと思っていた。

 しかし、実際対戦させると、日本のカブトはやる気満々で、土俵からアトラスを追い出してしまったのだ。周りから「あぁー」と、ため息が出る。もう一度やったのだが、相向かっただけで、アトラスは後ろ向きで逃げ出す始末。「日本のカブトの勝ち!」。日本のカブトムシだって強いのだ。「もうすぐバスが来ますよー」と言う先生の言葉で最後になり、みんなの「えぇー」と言う言葉に私も同調しそうになった。

 そこで、勝利した日本のカブトムシは、ただ一人応援してくれた女の子にプレゼントした。すると、周りから「いいなぁ」「おれも応援しておけばよかった」と言う声が聞こえる。思わず吹き出しそうになる。どこまで分かってもらえたか心配だったのだが、後日、スーパーで先程の女の子に偶然会った。「先生、カブトムシ元気だよ」と言う。ほかの生徒にも「先生、カブトムシ採るには、やっぱりバナナかなぁ?」「これ、何クワガタ?」などと、尋ねられることもあり、少し安心した。

 私は、昆虫をきっかけにして自然科学に目を向ける子供たちが増えてほしいと願っている。コンピューターゲーム世代の子供たちは、島でも事情は同じ。それでも、話をした子供たちの目は、生き物に接することで生き生きしていた。こんなにも本気なまなざしを見たら、まだ日本も捨てられないと思う。

 昆虫は動物界の90%以上を占めている割に、日本では学問的に西欧諸国からかなり遅れている、といわれる。宇宙開発にも検討される昆虫工学だが、日本の発展を救えるのは彼らのように興味を持ってくれる子供たちではないだろうか。何とか自然科学への芽を育てていきたいと願う。

(上毛新聞 2005年4月16日掲載)