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新生会・地域生活支援センター所長 鈴木 育三さん(榛名町中室田)

【略歴】立教大大学院応用社会学研究科修了。聖公会神学院専任講師を経て、84年から社会福祉法人新生会理事。地域生活支援センター所長。群馬社会福祉大短期大学部講師。

戦後60年


◎人に優しい社会環境を

 今年も入学、入社した人たちが新たな人生のスタートを切りました。役所や会社も人事異動があり、新しい環境、体制のもとで業務を開始しています。一人一人のライフサイクル・人生の歩みに応じて、不安と希望の混在する時期がしばらく続きそうです。とかくこの季節、人と社会環境が不具合を生じて精神的なバランスを崩しやすくなります。

 一昔前、「五月病」という言葉が使われていました。制度、仕組みが複雑化した効率優先の競争社会では、期待と現実の乖離(かいり)のはざまで強度のストレスを受けます。「制度疲労」という言葉もありますが、それ以上に、精神的にくたびれているのは人間です。

 グローバル化し、高度に発達した今日の情報化社会では、生身の人間が記号化され、計量・数量化されて情報の一断片と化しているかのようです。「テクノ・ストレス」という言葉さえ生んでいる科学技術社会は、市場主義の荒波にもまれて不安定な様相を呈しています。その効率性、利便性と裏腹に、私たちの身近な人と人との情緒的な人間関係は、疎遠感が深まっています。

 人対人の関係をもとにした医療、教育、福祉等、命に直接かかわる職種の人たちが経済効率優先主義の犠牲となって燃え尽き症候群に陥らないように、人間性を尊重した人に優しい社会福祉環境を構築する必要があります。「人間の尊厳」は、経済的コストでは測れませんから。

 「人間疎外」という哲学用語が使われて久しくなります。広辞苑によれば、「人間が自己の作り出したもの(生産物・制度等)によって支配される状況、さらに人間が生活のための仕事に充足感を見いだせず、人間関係が主として利害打算の関係と化し、人間性を喪失しつつある状況をあらわす」と解説されています。人間の尊厳を蹂躙(じゅうりん)し、もっとも人間疎外を引き起こすのは「戦争」です。

 きょう三日は「憲法記念日」。大東亜戦争後、戦争の惨禍を二度と繰り返さないことを誓って発布された「日本国憲法」。戦後六十年、戦争放棄をうたった新憲法の精神によってはぐくまれた世代は、還暦を迎えます。

 このところ妙に気になるのは、制度・政策が改変されるとき「改定」とはいわず、「改正」という表現がよく使われることです。「改正法案」という表現は、いかにも現行法が正しくなく、誤りであるかの印象を受けます。ちなみに「改正」とは、「改めて正しくする」と辞書にあります。

 国家の根幹である憲法について議論がなされています。憲法を改正しなければならないほど、現行憲法には誤りがあり、悪いのでしょうか。されば改正を余儀なくするほど「悪い法」を策定した説明責任が、問われなければならないでしょう。

 緑の季節を迎え、自然は命に満ちていますが、なぜか人の世は憂えることばかりで、「皐月(さつき)の鯉(こい)の吹き流し」といった気分にはとてもなれない昨今です。

(上毛新聞 2005年5月3日掲載)