視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬大学大学院工学研究科教授 大澤 研二さん(桐生市相生町)

【略歴】岡山大理学部卒。名古屋大大学院博士課程単位取得。理学博士。同大学院助教授、科学技術振興事業団などを経て一昨年4月から現職。愛知県出身。

子供の興味


◎機が熟すまで待とう

 十年ほど前、高校生のころに暮らしていたプレハブ内部の片付けをした。当時使っていたものの一部は弟に引き継いだが、多くは放置されたままで、中学時代に作った五球スーパーラジオも部屋の中にそのままころがっていた。

 がらくたばかりの中に見つけて懐かしく思ったのは顕微鏡だ。小学生のころ、顕微鏡が欲しいと父にせがんで買ってもらったもので、大学に勤めていた父は出入りの業者から買った単眼の顕微鏡を持って帰ってきた。

 何を見たくて頼んだのか、すっかり忘れてしまったが、とにかく身の回りのものを手当たり次第にのぞいてみた。一番印象に残っているのは、金魚池の泥の中に見つけたツリガネムシと呼ばれるプランクトンだ。バネを根元にくっつけた名前の通り鐘のような形をした生き物は、レンズの下で伸びたり縮んだりを繰り返していた。話に聞いていたものの、実際に自分の手で採って見たのは初めてで、その感動は忘れられない。

 もう一つ記憶に残っているのは、草木の葉の裏にある気孔という呼吸に関係した装置を見たことだ。これは普通、葉の裏を薄くはがして、それを見る方法を習っていたと思うが、もっと便利なものを買ってもらった。スンプと呼ばれたキットはプラスチックの丸い板とそれを溶かす溶剤から成り、板の表面を溶かして葉の裏に押しつけることで型をとる仕掛けである。

 大人は、そんなことで顕微鏡でしか見えない小さな構造の型がとれるのかと疑うのかもしれないが、子供はそんなことにさえ疑いを持たず、さっさと試してみる。するとそこに気孔の形がくっきりと現れて見えるのだ。うれしくなって、そこら中の葉っぱに試してみたのを覚えている。

 これらは研究と呼べる代物でもないし、観察と呼ぶにも物足りないところがある。しかし、生き物に興味を持ち、実際に研究を職業とするきっかけとなったことは確かである。もっといろんな要素が複雑に絡み合って、その後の展開があったのも事実だが、多くのきっかけの一つであることは間違いない。

 どうして顕微鏡を欲しくなったのか、肝心なことが思いだせないが、子供心に何かを思いついたのだろう。ただ、そんな子供の気紛れに本気でつきあってくれた父には感謝している。何しろ、その顕微鏡は当時、学生実習で使われるほど本格的なものであり、そのことを後年知ったとき、さらに感謝の念は強くなった。

 子供に将来何かをやらせたいとか、こうなってほしいとか、そんな期待を込めて子育てをする人も多いが、親の期待ばかりが空回りすることもあると聞く。子供の興味は必ずしも親の思い通りには動かないものと理解していれば、先に手を出さず、機が熟すまで待つことを選ぶだろう。その上で、ここ一番きちんと対応することの方が、思いがこもった先回りをするより、はるかに効果的だと思う。

(上毛新聞 2005年5月5日掲載)