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高崎経済大学地域政策学部教授 生沼 裕さん(東京都在住)

【略歴】栃木県生まれ。89年に東京大法学部を卒業し、自治省(現総務省)入省。環境庁、内閣官房、大阪府などの勤務を経て自治大学校教授。04年4月から現職。

災害列島


◎減災への努力怠るな

 わが国は「災害列島」といわれるように、地震、台風、豪雨、火山噴火などの災害が発生しやすい気候、地形を有しており、これまでも、たびたび大規模な災害に見舞われてきました。特に昨年は、まれに見る自然災害の集中する年となりました。七月の新潟・福島豪雨及び福井豪雨、十月に発生した新潟県中越地震、さらに今年三月にも福岡県西方沖において大きな地震が発生するなど、災害が頻発しています。

 このように、いつどこにおいても災害に見舞われる可能性があるわが国においては、災害に関する知識やこれに対処するための技術などを、誰もが身に付けておくことが何よりも大切です。しかしながら、被災地域などを除いては、災害に対する住民の危機意識は十分とはいえないのが実情ではないかと思います。報道によって一時的に危機意識は抱くが長続きしない、防災知識の習得等具体的な取り組みにまではなかなか至らない、というのが実際のところではないでしょうか。

 防災知識等の普及啓発について、政府はこれまで「防災週間」や「防災とボランティア週間」を定め、大掛かりな防災訓練等を実施してきました。また、総務省消防庁では、より多くの国民に防災・危機管理教育の機会を提供するため、昨年二月からインターネット上で動画や音声などにより、いつでも、どこでも、誰でも、無料で防災に関する学習が可能な「防災・危機管理e―カレッジ」(URL http://www.e−college.fdma.go.jp)の配信を始めています。

 この「e―カレッジ」には、地方公務員向けのカリキュラムのほかに、住民向けのコースとして「災害への備えコース」、サバイバル技術をまとめた「いざという時役立つ知識コース」などが用意されており、今年三月からは幼児・小学校低学年の児童や消防団員及び外国人を対象としたコンテンツも新設されました。一方、地方自治体でも、防災訓練や自主防災組織の育成などを通じて、住民、事業所等に対する防災知識等の普及啓発に努めています。

 災害対策の基本は自助・共助・公助の組み合わせであるといわれています。国や地方自治体が過去の教訓を生かし、できうる限りの対策を講じる努力をするのは当然のこととして、災害発生時においては多くの場合、まずは住民一人一人が自分や家族を守り、隣人等とともに地域の安全を守らなければならないことを自覚し、これに必要な知識・技術を身に付け、減災への努力を常日ごろから心掛けることが何よりも大切です。

 そして、このような住民の防災意識・危機意識の高まりが、災害対策に対する行政の取り組みをなお一層促進させる原動力となります。多くの国民がさまざまな機会を通じ、防災についての具体的な取り組みを始める―今年が、その第一歩を踏み出す年になることを期待したいと思います。

(上毛新聞 2005年5月11日掲載)