視点 オピニオン21
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NPO法人シーヤクラブ理事長 池田 久子さん(渋川市金井)

【略歴】3人の子供が不登校だったことから、「不登校を考える親の会」を経て、NPO法人シーヤクラブを設立。筝曲アンサンブル「真音(まいん)」主宰。

子供の自立


◎信じて見守る姿勢を

 親と子は実に不思議な関係だと思います。母親の胎内から生まれ出た瞬間から、親離れ子離れの道を歩き出すのです。自分の子供であっても、自分のものではないのです。子供は行きつ戻りつ、親の愛を確かめながら親から離れていきます。親の愛とは大木を支える木の根のようです。子供の人生の表舞台に立つことはなく、そっと陰から見守り支えるのが親の愛です。

 七年前の夏、高校を中退した十七歳の息子は、夫の実家がある北海道にバイクに乗って一人旅に出ました。「事故に遭ったらどうしょう」と心配する私に、「自分の手が届かないところにいる子供のことを心配しても仕方がない。無駄なことだ。何か起きたときに対応すればいいんだよ」と夫が言いました。「それもそうだ」と思いながらも落ち着かない私がいました。

 携帯電話もそれほど普及していないころでした。公衆電話を探したのか、息子から電話がかかってきました。「お母さん、今、谷川岳に着いたよ。これから新潟県に入るからね」「そうかい。気を付けてね」。そんなことしか言えない私でした。まもなくして「新潟港に着いたよ。これから船に乗るからね」「分かったよ。いよいよだね」。

 しばらくすると、「乗船したけど、何もすることがなくて退屈だよ」「もう遅いから寝なさい」。翌日の夕方、「小樽に着いたよ。こっちは雨だよ」「もう夕方だから、雨だし小樽に泊まりなさい」。そのまた翌日、「おばあちゃんの家に着いたけど、誰もいないよ」「買い物にでも行っているのだから、一回りしてきなさい」と指示する私。

 北海道に無事に着いた息子は夫の実家を足掛かりに、いろいろな所に行きました。阿寒湖のほとりでキャンプ中にエゾジカに出くわしたり、あまりの寒さにキャンプを急きょ中止して宿を探し歩いたりしたそうです。

 一カ月ほどして「今日、出発したよ」と義母から電話がありました。丸一日たった夕方、「ブルルーン」と買い物から帰って来たような気軽さで息子が帰ってきました。帰りは電話をかけることもなく、自信にあふれ一回り大きくなった息子がいました。行くときのあの電話は何だったのでしょう。甘え過ぎのような気もしますが、安心の保証があって、はじめて飛び立てるのだと思います。

 子供は本来、自ら育つ力があります。そして、親が邪魔をしない限り、やがて自立し親から離れていきます。むしろ、親の方が子供を一人の人間として見ることができず、なかなか子離れができないようです。親の思いを押し付けるのではなく、子供のことは子供自身に任せ、子供の力を信じて見守る姿勢が大切です。突き放すことと甘やかすことの、さじ加減がとても難しいのですが、子供を思う素直な気持ちがあれば、子離れがスムーズにいくのではないかと思います。

(上毛新聞 2005年5月15日掲載)