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弁護士 神山 美智子さん(東京都港区)

【略歴】伊勢崎市生まれ。伊勢崎女子高、中央大法学部卒。65年に東京弁護士会に登録。03年4月から「食の安全監視市民委員会」代表。

身近な化学物質


◎安易に使わないように

 つり下げタイプの殺虫剤、ファン付き殺虫剤などというものをよく見かけます。暑くなると、テレビコマーシャルも多くなります。つるしておくだけで成分が揮発し、虫が死ぬというものです。多くの製薬メーカーが製造販売していますが、つり下げタイプのDDVP(ジクロルボス)製品について、昨年、東京都が室内への汚染度を調査しました。その結果、こうしたものを一本ぶら下げておくだけで、毎日、安全とされる量(一日摂取許容量・ADI)の四・七倍から二二倍ものDDVPを吸入してしまうことが分かりました。

 これを受けて、厚生労働省も人が長時間とどまる区域での使用をしないよう通知しましたが、実際の使用者への指導は都道府県に任されたままです。

 同じく、厚生労働省は昨年、クレオソート油を有害物質に指定しましたが、家庭内での使用についての指導はやはり都道府県任せでした。クレオソート油は枕木などの防腐剤として使用されていたものですが、廃枕木がガーデニング用品としてブームになったため、日常生活の中にクレオソート油が持ち込まれることになったのです。

 このほかにも、テフロン加工のフライパン、防水・防汚加工のカーペットや衣類などに使われている有機フッ素化合物が、難分解性があるとしてアメリカのメーカーが生産中止を決めたほどなのに、この事実はほとんど知られていません。人への毒性はまだ分かっていませんが、テフロン加工鍋を高温に加熱したところ、近くの鳥かごのインコが急死したという報告があります。

 犬のノミ取り剤で首の後ろに垂らすものがあり、獣医さんが処方してくれます。使用した後二十四時間は飼い主や家族がさわらないように、ケージに閉じこめておかなくてはなりません。ところが、獣医さんからそのような指示がない例がたくさんあるので、小さい子供が知らずに触っているかもしれません。

 このように、私たちの身近なところに有害な化学物質があるのに、ほとんど何も知らずに暮らしています。むしろ、テフロン加工鍋など、安売りまでされているそうです。

 私たちはさまざまな化学物質のおかげで、便利で快適な生活を送っていますが、その陰には危険もつきものだ、ということを知る必要があります。

 今年はスギ花粉の飛散量が多かったため花粉症の人が増えた、といわれていますが、昔だってスギ林はあったし、花粉も飛んでいたはずです。スギだけでなく、普通の花の花粉症の人さえいます。卵や小麦など食物アレルギーも多くなり、必ず表示されるようになりました。

 こうした状況はスギや花や卵や小麦にだけ原因があるのではなく、大気汚染や、家庭内に入り込んだ多くの化学物質、加工食品などにより、私たちの免疫系統がおかしくなった結果かもしれないのです。

 豊かで快適な生活を手放すことは不可能ですが、使わなくても済む化学物質はできるだけ使わないという選択が、私たちや子供たちの命と健康のために必要だと思います。

(上毛新聞 2005年5月20日掲載)