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万座スキー学校長 黒岩 達介さん(嬬恋村干俣)

【略歴】高崎高校中退。オーストリア国立スキー学校に留学。帰国後、万座スキー学校を創立、校長に就任。日本職業スキー教師協会常務理事などを歴任した。

スキーリハビリ


◎予想を上回る運動量に

 ゴールデン・ウイークに入って、ここ万座温泉周辺の山々は例年に比べて残雪が多く、春スキーを楽しむ人たちでにぎわっていた。そんな中、スキーシーズンによく見えるA氏夫妻がスキーかたがた相談に来られた。A氏は仕事をリタイアされてから嬬恋村の別荘地にセカンドハウスを建て、毎週末、静岡の実家から来村している。

 ご縁があって、シーズン中、私がスキーリハビリをしている姿を観察されたり、写真を撮ってくださったりする仲である。

 ところで、相談事は? お伺いするとパソコンを取り出し、慣れた手つきでご自身のホームページを開き、富士山や浅間山の素晴らしい風景写真を見せてくださった。私のスキーリハビリ中の写真のほか、多くの身体障害者のスキー滑走写真の数々も映し出された。

 「この七十歳のご婦人も、黒岩さんと同じ脳梗塞(こうそく)を患った方です」との説明があり、その勇姿に感心していると、「これらの映像を見た人たちは皆さん、勇気づけられたり、元気をいただけると言われます。ついては、黒岩さんの滑走写真を私のホームページに組み込み、一人でも多くの方に見ていただきたいと思うのですが。タイトルを含めて考えていただきたい」と言う。

 私は医療に関与することはできないと前置きしながらも、スキーリハビリについては、かつて高名な大学教授の金言を引用して「リハビリは、自身の最も得意とするスポーツを行うことをよしとする」をかみしめるように申し上げ、スキースポーツの運動特性の一端を話し始めた。

 それは、日本スキー科学研究委員会に功績のあった木下是雄、穂坂直弘両氏の共著《スキーの物理と力学》に基づくもので、スキー運動のエネルギー源は重力という外力である、ということから「スキーは滑降(落下運動)であり、真っ直ぐに滑っている限り、スキーヤー自身は疲れるはずがないと思うが、スキーをはいたことのある人なら『とんでもない』と答えるに決まっている」と。それを解明する実験を行ったのが、前述の両先生方であった。その報告によると―。

 斜度五度(緩斜面)を人力で踏みならし、約九十メートルを両スキー板を平行にして直滑降したときの身体運動量を測定した結果、予想を上回る運動量であることが判明した。その値は百メートルを全力疾走したのと同じであったという。これからすると、リフトに乗って半日滑降すれば優に五―六キロは滑ることになり、その運動量は膨大なものになる。

 古希という年代にとっては、スキー以外のスポーツではとても消化できる運動量ではない。それを根拠に「機能回復はスキーリハビリで」のタイトルで私の滑走写真をホームページに載せていただいた。一人でも多くの方と、スキーができる喜びを分かち合いたいと願うからである。A氏のホームページは「スキーと富士山・浅間山写真集」(URL http://www4.tokai.or.jp.asaoka/)。

(上毛新聞 2005年5月22日掲載)