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スバルテクニカインターナショナル社長 桂田 勝さん(太田市金山町)

【略歴】東京都出身。東京大工学部航空学科卒。66年富士重工業入社。米国ミシガン大高速自動車研究所客員研究員を経て、常務執行役員、技術研究所長など歴任。

科学が地球を縮める


◎心から安らげる時間を

 近年、特にこの十年間、世界が急激に狭くなりました。もちろん半径六千三百七十キロの地球が縮んでいるわけではなく、感覚的なものです。第一に交通機関の発達により、一日に移動可能な距離が格段に長くなったこと、第二にインターネットや携帯電話の出現によって世界中の情報が瞬時に入手でき、コミュニケーションが可能になったことの二つが原因でしょう。

 江戸時代の人々は東海道五十三の宿場を利用して江戸から京へ旅し、勝海舟は三十七日かけて船でアメリカまで行きました。ジェット機の時代になっても、例えば、私が初めてアメリカに行った一九七一年はまだ成田空港がなく、世界への窓口であった羽田空港のロビーでは海外出張する人に社員が列をなし、万歳三唱して見送る光景が普通でした。機内で日付変更線通過記念の色紙をいただき、ホノルルで給油のため一度降りました。海外は遠かったのです。

 ところが今日では機内食を食べ、映画を見ていればロスに着いてしまいます。せいぜい、ちょっと遠い国内旅行ぐらいの感覚です。かつては皆、海外出張にあこがれたものでしたが、今は積極的でなくなりました。

 江戸時代の情報は、飛脚や馬で運ばれていました。モールス信号や有線の電話を経て携帯電話の時代になり、新聞や本からしか得られなかった情報も瞬時にインターネットで得ることができます。

 WRC(世界ラリー選手権)で世界を転戦していますと、このことを肌で感じます。十年前はホテルの電話で一日ごとの結果を日本へ知らせ、日本では社員が皆、受話器に耳を寄せ合い、一喜一憂しました。それが今や、社員は各自のパソコンでラリー現場からの結果をリアルタイムで得ることができます。現場にいる私より、群馬にいる家族の方がラリー中の情報を早く多く得ているという、おかしなこともよく起こります。

 一つの情報を苦労して得た昔は、それだけ一つの情報に感動しましたが、今は瞬時に好きなだけ得ることのできる情報に対する感動も薄れています。

 このように、地球が近代技術により小さくなってくると、いつの日か世界を一つの国として各国が県のような位置づけになるかもしれません。各国の文化のお互いに与える影響と融合は今後、加速度的に進展すると思います。異文化の衝突と、その先にある戦争が少なくなるのではと期待しています。ただし、現在の人々はその過渡期を生きていかなければなりません。

 科学技術の発展がもたらす社会全体のスピードアップが生身の人間を置き去りにしつつある世の中で、情報の洪水に翻ほん弄ろうされ、疲れ、いらいらしながら生きていくことになりますから、意識して生活の中に人間として心から安らげる時間を持つことが必要です。

 幸い、本県は四季の変化を感ずるのに良い土地柄です。自然の中にゆったりと身を置く、自らの肉体を使ったウオーキングやスポーツをする、芸術に没頭する―など、人それぞれの活動を日常生活に無理なく取り込めるようにコミュニティー等の環境をつくっていきたいものです。

(上毛新聞 2005年5月25日掲載)