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群馬大学学長 鈴木 守さん(高崎市石原町)

【略歴】千葉大医学部卒。群馬大教授、同大医学部長、副学長を経て現職。国大協、中教審の委員として今後の教員養成の在り方を検討している。

分極化の中の教育


◎大学も行政も真剣勝負

 以前、本学において、医師としての適性に疑問がある学生に、医学部教務委員長が進路変更を助言したことがあった。私が、このことを都内のある高校長に話したところ、「医学部進学希望者の家庭が医師であれば話は分かるが、そうでない場合も多い。問題のあった、その学生の親の職業は何だったのか」という質問を受けた。多くの志願者が殺到する専門分野に、世襲や偏差値に頼り、深く考えないまま挑戦する受験風潮に対する苦い思いが、そのような質問となったのであろう。

 しかし、この質問で私は水をかけられたように感じた。現在、政治家に二世議員が増えている。医師の子弟が医師になる例も確かに多い。教員の子弟が教員という例も少なくない。職業上の区分けが家系ごとに固定化する趨すう勢せいが進むとすると、将来の日本には、夢のない精気に欠ける空気が漂い、それに対する反発が若者の異常行動となって噴出することは容易に想像される。

 現在の日本の経済は富裕層と貧困層とに二分極化される傾向にあることが、経済の客観的資料によって示されている。昨年十二月、国立大学法人の授業料値上げが決められたことは、国立大学協会関係者に大きな衝撃を与えた。経済分配が二分極化されるところに授業料の値上げが続くことにより、一方の階層では教育費が家計を圧迫する。その結果が教育のひずみを生じさせ、富裕層用の「上等な教育」が特別仕立てで用意される事態が生じはしないか。

 私は英国留学中の昭和四十七―四十八年ごろ、近所に住む学校の先生に対して個人的に日本語を教えていた。その先生は、英国政府が日本をモデルとして大衆教育の向上を目標とし、上流階級の子弟が進学を志向するグラマースクールを廃止して、総合中等学校に替えることに反対であった。

 グラマースクールで教えていたその先生は、「日本と英国とは歴史的背景が違う。英国の教育は崩壊してしまう」と、日本の大衆教育の質の高さに羨せん望ぼうを示す一方で、英国の伝統的な教育体制は守らなければならないとの信念も持っていた。上流階級の教育はさておいて、日本の大衆教育のレベルが向上したのは、戦後の民主化教育のためと見なされがちであるが、戦前からの歴史は意外に顧みられていない。

 明治の初めに一万六千に及ぶ寺子屋が存在していたこと、そこでの教育は、すべて無償で行われていたこと、その土壌を基に初等教育体系は迅速に整備され、地元の寄付により校舎が建てられて、小学校数は現在の数とあまり変わりないまでになったこと。これらの事実は、英国には見られない日本の教育の背景といえる。

 県内の新しい教育体制が、群馬大学と群馬県との連携によって構築されようとしていることに、文部科学省も注目している。社会の階層化、分極化が進む趨勢を、教育界がいかに受けて立つか、大学も行政もいま真剣勝負に直面している。

(上毛新聞 2005年5月29日掲載)