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群馬昆虫学会員 村山 聡則さん(前橋市南町)

【略歴】南九州大卒。大学在学中に昆虫の研究に目覚め、九州南部の離島でクワガタムシの新亜種を発見した。会社勤務の傍ら、自然観察指導員としても活躍。

スズメバチ


◎刺されたら早急に治療

 ある島で虫捕り用のわなを仕掛けていたところ、木の枝を手で払った瞬間、ブーンバシバシといきなりハチに刺された。一瞬だったので対処できなかったのだが、目の上二カ所を刺された。姿からいってアシナガバチだ。間違いなく目に向かってきた。重苦しいような痛みに耐えながら島の診療所に向かったが、応急処置しかできず本土に戻って当番医で処置した。

 アシナガバチはスズメバチほど有名ではないが種類も多く、数匹に刺されて死亡する事例もあるので安心できない。一度、隣家の軒下に巣ができ、次第に大きくなりハチも増えて危険なので、近所同士で相談して市役所に電話したことがある。ところが、「スズメバチでないと処置しません」と言われた。死人さえでるのにどういうことなのか。まして、関心の薄い人にスズメバチかアシナガバチか区別ができるのか。とにかく軒下の巣は、近所に子供がいるため、家主と相談して業者を呼んで処理した。

 ちなみに千葉県立中央博物館の資料によると、致死率の実験ではスズメバチよりもアシナガバチの方が強い毒性だという結果を指摘している。騒ぎにならないのは、注入される毒が少ないためではないかとのことだ。

 スズメバチの特徴として、ご存じの方もいるように、黒い服に寄って来る、目を狙う、攻撃直前に「カチカチカチ」という警告音を発する、などである。昆虫採集で樹液にスズメバチが来ている場合は、その木を横切ってはいけない。誤って飛んできたら背を低くしてしゃがみ、じっとしていること。しばらくすれば飛び去って行く。ただし、しゃがんだときに上を向いては駄目。人の目に反応して飛びかかってくるからだ。このときは下を向いて後頭部(首の周り)を手で覆う。

 また、スズメバチが木に着いている時は、木に対して真っすぐに、ゆっくり遠ざかる。スズメバチは横方向の動きに反応するが、縦方向の動きには反応が鈍いといわれているからだ。最近では「ポイズンリムーバー」という器具があり、注射器の形をしていて毒を抜くようになっている。刺されてすぐなら効果があるようで、毒蛇にかまれたときも利用できる。緊急時に持っていない場合は、ペットボトルをへこませて毒を吸い出す方法もあるが、あくまでも簡易方法なので早急に医師の治療を受けるべきである。

 さて、樹液などに集まってくる大きなスズメバチはオオスズメバチといい、その仲間では世界最大といわれている。ミツバチの巣箱を襲撃してハチを殺し、蜜(みつ)を盗んで養蜂家も困らせている。

 最近の養蜂(ようほう)の主体は外国から移入したセイヨウミツバチ。もともと日本にいるニホンミツバチは巣が崩れて採蜜しにくく、あまり養蜂には使われなくなった。しかし、ニホンミツバチはスズメバチの襲撃を受けると集団で取り囲み、発熱させて熱死させる技を持つ。この対抗策があるため日本では生き残ってきた。なのに、どうしてかセイヨウミツバチに追いやられ、山間部でしか見られなくなった。自然界の事情は複雑だが、おかしな事件が多い世の中、ハチよりも人間の方が恐ろしく思えるのは私だけだろうか。

(上毛新聞 2005年6月8日掲載)