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元東海大学医学部小児外科学教授 横山 清七さん(神奈川県茅ケ崎市)

【略歴】富岡市出身。新島学園高、慶応大医学部卒。第19回日本小児がん学会長。現在、病気とたたかう子どもたちに夢のキャンプを創る会会長、大磯幸寿苑施設長。

老人介護施設


◎一度は見学してほしい

 年を取ると骨がもろくなり、これを骨粗しょう症と呼ぶ。老人の骨は折れやすく、バリアにつまずいて転ぶと、その転び方にもよるが、いろいろな部位の骨折が起こる。転倒による骨折で最も多いのは大腿(だいたい)骨頸部(けいぶ)(股(こ)関節に近い大腿骨の首に相当する部分)骨折と決まっている。

 この場合、緊急手術を行い、すぐにリハビリ(機能回復のための訓練)を開始しないと、いわゆる寝たきり老人になってしまう。全身の筋肉は委縮し、筋力は低下する。同時に脳の働きも衰え、生活するために必要な、あらゆる機能が急激に不良となる。それまで元気に普通に生活していた人が、それこそ信じられないほど急激に老化し、介護を要するようになる。

 小児の手術ばかりを三十年間やってきた僕が一転、老人介護の施設で仕事をすることになった。七十、八十、九十歳の老人を診ることになった。つえを突いて歩ける人からベッドから自力では起き上がれない人までがおり、脳梗塞(こうそく)後遺症、半身まひ、言語障害、高血圧、糖尿病など、一人当たり最低でも三つ以上の病気を持っている。さらに病歴として、心筋梗塞、骨折、白内障、がんの手術、その他、多種多様な病気を経験した人たち百人が入所している。

 病気が多いから当然とはいえ、新入所する老人は文字通り山ほどの薬を処方され、持参して来る。これを管理、投薬する看護師の仕事は大変である。突然の発熱、転倒、打撲、胸痛、腹痛、腰痛、関節痛などの訴えは日常茶飯事。一年中休みなし。国民の休日も正月休みもなしで働いている。

 さらに大変なのは介護士の仕事。食事の介助、トイレ誘導、おしめ交換、宿便排除、清拭(せいしき)(お尻をきれいにする)、入浴、ベッドから車いすへの移乗、その他、日常生活全般への介助を行う。そして、何よりも大変なのは、難聴、失語症、老人性痴呆による無理解、暴言などの症状があるためにコミュニケーション(対話と相互理解)が非常に難しく、忍耐が必要なことである。

 マンパワー不足を補うために外国から看護師、介護士を呼ぶという話が新聞で報道された。もし、高額の報酬が得られる仕事として看護、介護士を選び、日本へ来るとしたら。現場に言わせれば“冗談じゃない!”である。日本語をしゃべれない人が、収入を得たいがためにかかわるような仕事ではない。人のために尽くしたいという純粋な気持ちで勉強し、資格を得て、人生の大先輩を尊敬する心を持ってお世話する仕事である。

 日本中のニート、フリーターに言いたい。一度、老人介護施設を見学に来てほしい。いわゆる、3K(きつい、汚い、危険な)の仕事をしている同年齢の看護師や介護士たちを見たら、ビックリし、感動し、新しく生きる道、自らの進むべき道を見つけられるかもしれない。

(上毛新聞 2005年6月10日掲載)