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君津市国保小櫃診療所所長 提箸 延幸さん(千葉県君津市)

【略歴】前橋市内の病院に20年勤務し、その間、アフガニスタン、アフリカなどで医療救護活動に携わる。近著に「写真で見る海外紛争地医療」(医学書院)がある。

深刻な出生率


◎国際結婚も一つの方策

 今月二日付の朝刊、日本の排他的経済水域を侵犯した韓国密漁船を間ににらみ合う日本の巡視艇と韓国の警備艇の緊迫した写真が出ていた。海上で対峙(たいじ)する艦艇が両国の不安定な関係を象徴するように見えるが、同じ日の新聞の一面「出生率1・29」の白抜き文字の記事も、日本の将来を予測させる上で重要であると思えた。

 しかし、同様な数字が数年続いて出ているためか緊迫感がない。この二つの記事は、それぞれ関連のないものに映るが、私には懐かしい子供時代の古い記憶を呼び起こしてくれた。

 年配の方なら思い出すであろうが、多分、日韓条約が結ばれる以前には対馬沖に韓国が「李(当時の韓国大統領の姓に由来)ライン」と称する領海線を独自に設定して、今とは逆に韓国警備艇が日本漁船を拿だ捕ほしていた。そのころ、マスコミや政治の世界では「なぜ、日本は貧しいのか?」という問いが繰り返されていた。お決まりの答えは「狭い国なのに人口が多すぎる」「人口が少なくなれば、豊かになれる」と、よく聞いたものである。

 それから半世紀近くたって、「竹島」を除いて対馬沖の様子も変わり、初任給は当時の十倍ほどになり、課題の人口減少も達成できそうであるが、期待とは裏腹に少子高齢社会が年金、福祉制度を直撃して、これを根底から揺さぶっている。反日教育を強化させたという前中国主席の「近い将来、日本は消滅する」という発言も、低出生率とは別の意味で言ったものであろうが、現実味を帯びてくる。

 低出生率に対して新聞の解説記事では育児を可能にする職場環境の整備などを提案しているが、新味がない。朝の芸能報道番組の中でも、元大関・貴ノ花の葬儀での若貴兄弟の確執の話題に続いて、放送時間の埋め合わせかのように低出生率を取り上げていた。

 出演者は「仕事を続けるのと、仕事をやめて育児を選択するかで生涯収入に一億二千万円ほどの違いが出る。そこで子供を産まずにダブルインカム(夫婦共働き)を選択するのではないか」との趣旨を述べた。しかし、夫婦独居の高齢者と、子供と同居する高齢者の生活の違いを診療現場で見ていると、子供のいる生活の方がお金に換算することを無意味にする素晴らしいものであることを実感できる。

 ところで、出生率を上げるにはまずカップルが必要であるが、晩婚化や結婚をしたくても最適なパートナーを見つけられない状況もある。ところで乳幼児の健診や予防接種を行っていて、小さな地域なのに外国人のお母さんが少なくないことに気付いた。以前に日本女性が農家に嫁がないことが話題になったが、そのような背景があるのかもしれない。

 そこで、私は国際結婚も一つの方策と考えるようになった。政府がビザの発給などで後押しすれば有効な対策になるかもしれない。もちろん、女性も「ヨン様」のような韓国男性を選ぶのもよいであろう。「国際結婚」の提案、少しとっぴな考えかもしれないが、それほど出生率の問題は深刻と私は考えている。

(上毛新聞 2005年6月25日掲載)