視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
高崎経済大学地域政策学部教授 生沼 裕さん(東京都在住)

【略歴】栃木県生まれ。89年に東京大法学部を卒業し、自治省(現総務省)入省。環境庁、内閣官房、大阪府などの勤務を経て自治大学校教授。04年4月から現職。

国民保護法


◎実効性ある有事体制を

 「国民保護法」(昨年九月施行。正式には「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」)という法律をご存じだろうか。

 この法律は、わが国が武力攻撃等を受けたときの対処に関して、基本理念や国・地方自治体の責務などを定めた「武力攻撃事態対処法」(平成十五年六月施行)に基づき作成され、武力攻撃事態(上陸侵攻や特殊部隊等による攻撃、弾道ミサイル、航空攻撃など)等において、国民の生命等を保護し、被害を最小にするための具体的な措置を定めている。

 国民保護の基本となる枠組みは、次の通りである。まず、国から警報や避難措置の実施の指示が出される。指示を受けた県知事は、市町村長を経由して住民に対し避難の指示(避難先・経路等を明示)を行う。市町村長は、消防を含む市町村職員を指揮し、避難住民の誘導を行う。また、県知事は避難住民等の救援(収容施設の設置、食品・飲料水、医療の提供等)を実施する。

 さらに、国や自治体等により、安否情報の収集・提供、施設等の応急復旧、危険物質等による汚染の除去等の措置が行われる。この他、県知事の緊急通報や市町村長の退避の指示など、緊急事態における自治体独自の権限も設けられている。一方、国民は避難誘導、救援、消火活動等について、必要な協力を行うよう努めるものとされている。これらの仕組みは、緊急対処事態(武力攻撃に準ずるテロ等の事態、駅や列車の爆破、炭たん疽そ菌やサリン等の大量散布等)にも基本的に準用される。

 戦後六十年近く、このような法制が全く整備されていなかったというのは、国際的に見れば信じられないようなことだという指摘は多い。米国の同時多発テロや日本近海における武装不審船の出現、イラク情勢や国際テロの脅威などにより、安全保障に対する国民の関心が高まる中、このような法整備がなされた意義は大きいといえる。

 今後は国民保護法等に基づき、都道府県は本年度中、市町村は来年度中を目途に「国民保護計画」(国民保護措置の実施体制、住民の避難や救援、訓練等に関する事項などを定める)を策定することになる。群馬県も先般、計画策定にかかる諮問機関である県国民保護協議会を設置し、本格的な検討を開始した。また、放送や運送事業者などの指定公共機関等も、その業務に関し、国民の保護に関する業務計画を策定することになっている。

 言うまでもなく、このような制度が発動されるような事態が今後永久に起こらないことが、国民誰しもの願いである。しかし、残念ながら、昨今の国際情勢の下、万が一の事態が起きることを完全に否定できない状況にわが国が置かれているのも事実である。今後、国や自治体は、国民の理解を深めるため、あらゆる機会を通じてその啓発に努めるとともに、訓練等を通じて、より実効性のある有事体制づくりを進めていってもらいたいと思う。

 私たちに必要なことは、普通の人間としての感性を磨き、おかしいことをおかしいと感じることではないでしょうか。

(上毛新聞 2005年7月12日掲載)