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中小企業診断協会県支部副支部長 森山 亨さん(桐生市堤町)

【略歴】早稲田大法学部卒。大和紡績マーケティング部長、桐生地域地場産業振興センター専務理事などを歴任。国、県などの各種懇談会、審議会で委員を務める。

公害の原点を未来に


◎渓谷鉄道を生かす契機

 二十一世紀の難問を重要度の順に挙げれば、上位に公害・地球環境問題が入ることは疑う余地はないが、日本におけるこの問題の原点は、地元も被害を受けた足尾鉱毒事件であることは広く知られている。

 この事件は、足尾銅山から流失した鉱毒が渡良瀬川沿岸に拡散し、広大な流域一帯に甚大な被害をもたらした事件だが、その深刻さはいまだに草木の生えない旧鉱山一帯の山肌や、広大な渡良瀬遊水地を見れば少しはうなずけると思うが、しかし最初の鉱毒流失から百二十五年たった今もこの事件は終わったわけではない。

 いまだに鉱毒が残留しているばかりか、研究者が指摘するように、昭和三十年代後半以降の高度経済成長期に多発し、今も多くの人が苦しんでいる公害・環境事件のほとんどすべての問題点、例えば公害源の管理の甘さや、公害が発生してからの隠ぺいや発見の遅れ、対処の稚拙さなど、今も同じ行動パターンが繰り返されているからである。

 このように渡良瀬川流域は、公害という負の遺産を引き継いだ地域ではあるが、あたかも原爆が投下された広島や長崎が、原爆廃絶や世界平和の発信基地になったように、二十一世紀最大の難問である公害・地球環境問題を考える貴重な遺産を持つメッカでもある。

 話は変わるが、たまたまこの川の流域を走る第三セクターの渡良瀬渓谷鉄道はいま経営の危機に立たされていると聞く。経営者や沿線の自治体や住民は、この危機を乗り切ろうと駅に温泉を引き、トロッコ列車を走らせ、一万円で一年間乗り放題のフリーパスを販売するなど、涙ぐましい努力を重ねているが、いまだに安心できる状態ではないようだ。

 それならば一層のこと公害を逆手にとって「公害・地球環境問題を考える鉄道」をうたい文句にして売り出したらどうだろうか。二つの県にまたがるなら両県で協力すればいい。

 渓谷鉄道の車内に公害・地球環境問題に関する資料やパネルを置いて、終着の足尾駅に着くまで当時の公害の悲惨な実態を乗客に学んでもらい、途中駅には事件から今日まで、その地域がどのように問題を解決してきたかなどを物語る資料やパネルを展示したミニ博物館にするなど、沿線全体を一大公害・地球環境パークにしたらどうか。

 また県当局に、県内の児童や学生が卒業までに必ず一回は渡良瀬渓谷鉄道に乗って環境問題を考える時間を持つよう指導してもらうことだ。たまたま国は法制や教育体系を整備して環境教育に本腰を入れ始めたところだし、中心テーマも自然保護教育から公害防止教育に移しつつあるのでタイミングもよい。

 満員の生徒を乗せた渡良瀬渓谷鉄道が、次々に公害の原点の川に沿って走る光景を想像してほしい。沿線の自治体や住民にも、渓谷鉄道にも一石二鳥であるばかりか、群馬は環境を大事にする県であることを世界に示す、またとない機会になるのではないだろうか。

(上毛新聞 2005年7月16日掲載)