視点 オピニオン21
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スバルテクニカインターナショナル社長 桂田 勝さん(太田市金山町)

【略歴】東京都出身。東京大工学部航空学科卒。66年富士重工業入社。米国ミシガン大高速自動車研究所客員研究員を経て、常務執行役員、技術研究所長など歴任。

健全な精神のために


◎スポーツに打ち込もう

 「健全な精神は健康な身体に宿る」という言葉があります。「美しい心が たくましい体に からくも支えられる日が いつかは来る その日のために 体を鍛えておけ 若者よ」という歌もありました。

 私の人生の横には、常にスポーツがありました。中学・高校では器械体操、大学ではアメリカンフットボール、社会人になってからは水泳です。学生時代のスポーツは、人より良い演技をしたい、他チームに勝ちたいという純粋な心の発露でした。宙返りや大車輪を人前でやることにより、自分の心の管理に役立ちましたし、タックルやダッシュに明け暮れた毎日を通して知った苦しさを乗り越える努力の価値、勝利という目標のためにチーム一丸となることや縁の下の力持ちとなることの重要性は、私の人格形成に強く作用したのです。

 しかし、社会人になって四十年近く続けている水泳に対する姿勢は時とともに変化しました。初めの十五年は単に健康維持と爽快(そうかい)感のために、市民ランナーならぬ市民スイマーとして記録も取らず、バチャバチャやっていました。当時は、社員が昼休みにキャッチボールやテニス、卓球で汗を流すのんびりした時代でした。

 さらに十五年、社会全体がスピードアップし効率化が進んでくると、誰もかも、もちろん私も心身ともに疲れ、終業後プールに行かず家に直行したくなる誘惑に幾度も負けそうになりました。家とプールの三差路で「えい」と叫んでプールに向かうことが常でした。泳ぎ始めても最初の五百メートルは会社での出来事が頭から離れません。しかし、筋肉に負担を感じ始めると徐々に泳ぎに没頭して、いつの間にか昼間のストレスを忘れていきます。

 プールから上がり、シャワーを浴びるときは満足感と爽快感で心がいっぱいです。また身動きできないほどの腰痛も、水の浮力に身を任せながら少しずつ筋肉を鍛えることで病院に一度も行かずに治すことができました。身も心も水泳にどれほど助けられたことか。

 今では完全に生活の一部になり、葛藤(かっとう)もなく自然にプールに向かっています。六十歳を過ぎても筋肉量は増やせるという筑波大学の研究や、運動後三十分以内に良質のタンパク質を取るとよいとか、イチローがストレッチを重要視しているとか、励みになる情報が心の糧です。

 近ごろは悲惨な事件が起こります。今、日本が直面している現状の本質を正しくつかみ、対症療法ではなく根治することが大切です。精神が犯罪に傾かないよう鍛えるのにスポーツが一番なのではと思います。

 オリンピックやパラリンピックなど世界のトップから身近な市民大会、毎日のウオーキングやストレッチまでいろいろですが、各自のレベルに合わせて気軽に参加できる仕組みが必要です。特に県政・市政主導のスポーツコミュニティーをもっと発展させていただきたい。老若男女が同じスポーツに打ち込み、語り合えれば、身体にも心にも素晴らしいことではありませんか。

 この秋、先生の病院には緩和ケア病棟ができる。万一の場合の安心がひとつ増えた。

(上毛新聞 2005年7月25日掲載)