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日本釣振興会県支部長 秋本 國勝さん(高崎市上中居町)

【略歴】高崎商卒。全日本フライキャスティング大会チャンピオン。県内水面漁場管理委員、県「瀬と淵を取り戻す」検討委員。フィッシングショップ・アライ経営。

釣れ出したアユ


◎水試の研究の成果実る

 アユの友釣りは、釣れたアユをおとりとして、おとりアユがうまく泳げるような状態で、アユに糸や釣り針を縛り、野アユがいそうな所へ泳がせて行くと、自分の縄張りを取られてしまうと勘違いした野アユが、猛然と体当たりしてくる。すると、おとりアユに付いていた針に、自分から掛かってしまう。これが、アユの友釣りです。江戸時代に発見されたこの釣法は、世界に類はなく、「日本独特の釣り文化」といっても、過言ではないでしょう。

 その後、多くの国民に継承され、昭和の末期に全盛期を迎えたと思えます。その後、アユ釣り人口は徐々に減り、今では全盛期の半分以下と思えます。なぜここまでアユ釣り人口が減ったのか。主な原因はアユの冷水病で、アユが釣れなくなったからです。アユの冷水病は細菌によって起こる病気で、いったん発病すると、川のアユが大量に死亡してしまうこともある。アユにとって恐ろしい病気です。

 ところが三年前から、群馬の河川で異変が起きています。アユが釣れ出したのです。昨年度における県の新聞発表では「久々のアユ漁獲高増」とありましたが、今年は、昨年をはるかにしのぐ満足感が毎日、アユ釣り師の間でささやかれています。特に、烏川、碓氷川、鏑川、神流川、鮎川、赤谷川の結果はすさまじく、アユ解禁日や翌日に五十匹以上釣り上げた人は、数え切れないくらいいます。これらの河川は、完全に全盛期を超えたと判断して間違いないでしょう。

 川には、新潟、埼玉、東京の県外ナンバーの車も目立ちました。では、どうして三年前から急に良くなったのか? 県知事が水産行政に力を入れているとか、現場である漁業組合の人たちが努力工夫をしているのもその要因です。けれども、県水産試験場の長年における努力と研究の成果が、良くなった最大の要因ではないでしょうか。また、それとは反対に、多くの人たちの努力にもかかわらず、結果の出ていない河川もあります。その筆頭は利根川本流です。

 利根川は以前、関東有数のアユ釣り場で、「利根川の大アユ」とか「利根川の鼻曲がりアユ」として、全国的に有名でした。利根川のアユ復活なくして、群馬のアユ復活はありません。けれども今はその面影すらなく、奈良俣ダムと玉原、藤原の揚水発電所ができて以後、アユが育たない川になってしまいました。沼田地区が七月末で水温一三度前後、この水温はアユでなく、冷水性のヤマメの適水温です。

 そんな不可能に近い条件下で、利根川を何とかしようと、頑張っている人たちがたくさんいます。利根漁協、坂東漁協、群馬漁協の人たちをはじめ、県内外の多くのアユ釣りファンです。特に県水産試験場では、新しいアユ種苗など日夜研究開発しています。アユに関係する水産試験場の人たちに、年末年始の休みなど、今までもなかったし、これから先もないでしょう。群馬の魚のために本当に頑張っている水産試験場の人たちに、期待と感謝を込め、心より熱くエールを送ります。

(上毛新聞 2005年8月19日掲載)