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群馬ホスピスケア研究会代表 土屋 徳昭さん(高崎市中居町)

【略歴】小諸市出身、群馬大工学部卒。県内高校に28年間勤務、現在伊勢崎工業高非常勤講師。88年の群馬ホスピスケア研究会の設立に参加し、以後代表を務める。

ホスピス


◎肝要なのはケアの中身

 全国的にも、先駆けてホスピスケア(緩和ケア)の必要性とその理念の普及をアピールしてきた群馬ホスピスケア研究会は、今年で十八年目になる。背景には、ほぼ三人に一人といわれるがんによる死亡率の高さがある。その割合は、死因別疾患の第一位になって二十五年以上、今日でもあまり変化していないばかりか、アスベスト公害のように負の遺産にさかのぼって発症してくる例さえ明らかになってきた。日本にホスピスケアが医療として認可されたのは一九九〇年、当初五カ所だった施設もこの十五年間に百四十カ所を超えた。

 当時、最大の問題は医療ががん末期の身体的苦痛に対処できず、患者は筆舌に尽くしがたい痛みとの闘いの末に最期を迎えていた、ということである。無論、精神的・社会的・霊的苦痛の緩和といった視点はなかった。六〇年代、イギリスにおいて初めてその現状に目を向け、がん終末期医療の在り方に一石を投じた人がいた。本年七月十四日に亡くなったシシリー・ソンダース女史である。

 彼女は近代ホスピス運動の先駆者といわれ、今日のホスピスケアの礎を築いた。その概念が日本に紹介され始めたころ、本会は設立された。そこには医療現場で苦悩する医師・看護師、そして患者本人とその家族など市民の悲痛な思いと願いがあった。現在、会員は二百余人、ホスピスマインドの普及と悲嘆ケア、患者・家族ケア、施設・在宅ボランティア、相談業務などの活動をしている。

 本年六月、日本ホスピス在宅ケア研究会の第十三回全国大会が、被爆地広島の平和公園内にある会場で開催された。二日間で全国から延べ五千四百人が参加、ホスピス、緩和ケア、在宅ケアに関する今日的テーマが熱く議論された。その中から注目すべき報告を紹介する。

 一つは「ホスピスの多様化」というシンポジウムである。従来の施設型ホスピスに加え、在宅・訪問型ホスピス、ホームホスピス、デイホスピスなどへの取り組みが全国各地で展開されているという報告である。

 ホームホスピスは一種の施設である。自宅ではないが、自宅のような空間でのホスピスケアというものである。在宅ホスピスとの違いは、患者の主たる介護者が誰かという問題である。ホームホスピスでは親しい友人、ご近所、ボランティアなど他人が寄り添うことになる。いわば、がん患者にとっての下宿屋のようなものである。地域にホスピス施設を建設するのではなく、地域全体をホスピスに変えていくという発想である。核家族化、高齢化の急進行の中、ホームホスピスは新たな選択肢として患者ニーズに基づいて展開されつつある。

 日本のホスピス(緩和ケア)の基準はハード面に重点が置かれている。肝要なのはソフト面、つまりケアの中身である。一日三万八千円の定額医療をどのように運用して患者のケアに当たるか、各施設、関係者が知恵と力を出し合い、より患者ニーズに沿うホスピスケアを期待したい。

(上毛新聞 2005年8月20日掲載)