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群馬大学大学院工学研究科教授 大澤 研二さん(桐生市相生町)

【略歴】岡山大理学部卒。名古屋大大学院博士課程単位取得。理学博士。同大学院助教授、科学技術振興事業団などを経て一昨年4月から現職。愛知県出身。

跡を継ぐ


◎遺伝するのか研究能力

 前任地から大学院の専任教員となっているが、学部教育も兼任しており、基礎教育や専門教育に携わっている。専門外の科目を担当することもあるが、多くは生物学系統のものである。

 現在は三年生を担当しており、遺伝学の基礎から応用までを教えている。高校の生物で習うメンデルが発見したエンドウマメの遺伝の法則から、最新の分子遺伝学の話題まで時代の流れに沿った内容である。講義の特徴の一つはリポート課題で、課題の出し方に変化を持たせながら合計三回提出させている。

 テーマを必ずしも絞り込まないから、いろいろな話題が取り上げられて、それ自体楽しみとなる。多数の学生が取り上げる話題もあり、その中の一つに才能の遺伝というのがある。芸術の才能は遺伝するのか、運動の能力は遺伝するのかといった話は、身体や顔の特徴の遺伝とともに人々の興味を引くものなのだろう。出典は定かでないが、理科や数学の才能は遺伝しないという話があり、多くの学生たちは疑うことなく取り上げている。

 実際にどんな調査に基づくのか、どの程度信用できるのか、リポートからだけでは何とも言えないが、遺伝しないと断言している。確かに高度なレベルではそういうこともあるかもしれないが、そんなレベルの話とも思えない。一方、周囲を見ると意外に多くの人が二代目、三代目の学者になっていて、そこに何かしらのつながりがありそうに見える。

 以前にもそれらしいことを書いたが、私の父も同業である。同じ職業というだけでなく、研究分野も同じだから不思議がられることが多い。なぜかと聞かれても答えるすべを持ち合わせていないが、逆に反抗する材料がなかったからなのかもしれない。

 この分野の先駆者である父もかなり高齢となり、数年前から何か残してほしいと思うようになった。そこで知り合いの出版社に依頼して、口述筆記の形式で本人の研究史をまとめてもらった。もともとは日本におけるその分野の歴史といった内容を望んでいたが、結果は個人史となってしまった。とにかく草創期からかかわってきたから、同じ時間軸に乗っていたわけで、それでよかったのかもしれない。

 『飄々(ひょうひょう)楽学 新しい学問はこうして生まれつづける』(大沢文夫著、白日社刊)。できたものを読んで不思議に思うのは、研究というある特殊な職業に関するものであるのに、そこにはさまざまなことに共通する知恵のようなものが含まれていることだ。学問体系が明瞭(めいりょう)になっていないころから積み上げてきた自信のようなものが、そういった雰囲気を醸し出しているのかもしれない。

 何事にも集中してきた人々には、それぞれに何かしらの思いがあるのだろう。身内のことで手前みそになってしまうが、同時代を生きた世代だけでなく、これから大学に進む若い世代や研究に興味を持ち始めた人にもぜひ読んでほしいと思う。

(上毛新聞 2005年8月21日掲載)