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群馬昆虫学会員 村山 聡則さん(前橋市南町)

【略歴】南九州大卒。大学在学中に昆虫の研究に目覚め、九州南部の離島でクワガタムシの新亜種を発見した。会社勤務の傍ら、自然観察指導員としても活躍。

温暖化とクワガタムシ


◎種類と生息数に変化が

 地球温暖化は海面上昇や気候の変化だけではなく、もっと身近な所で起こっている。私がクワガタムシの定点調査で気づいたのは、温暖化に伴って種類と生息数が変化してきたことだ。具体的には、(1)山地性のクワガタの減少と北(寒冷地)への移動(2)暖地性のクワガタの北進(3)小型化―というのが主な現象である。

 (1)については、気温上昇に耐えられず、山の上の方へ、緯度が北の涼しい方へと追いやられてしまうのだ。これに含まれる生物は昆虫に限らずレリック(依存種)が多いため、早急な対策を取らねば、各地で種の絶滅が危ぐされる(県内で該当するクワガタはオニ、コルリ、ルリ、ツヤハダ、ホソツヤルリなどの各クワガタ)。

 (2)については、「ぐんま昆虫の森」館長の矢島稔氏も指摘されているが、県内では少なかったヒラタクワガタが北上しているのだ。本種はもともと暖地を好むが、温暖化により山の方へ、北の地域へと分布を広げている。半面、ミヤマ(深山の意味)クワガタはその名の通り涼しい場所を好むが、逆に分布を狭めている。

 (3)の小型化というのは、(1)と(2)の影響も関係している。クワガタムシが好む場所というのはある程度決まっていて、例えば、どこでも樹液の出る木さえあればよいというわけではない。生息する場所には空間的に限度がある。そのため他の昆虫や仲間とともに生息するには定員枠があるのだ。だからヒラタクワガタが分布を広げると、力の弱いほかのクワガタや昆虫ははみ出してしまうのだ。

 また、特定の樹液が出る木がある林にクワガタが集中することになれば、餌をめぐって争わなければならず、さらに、特定の場所に集まることで雄雌の出会いが増えることになり、生まれる子供の数は増えるのだが、餌が足りずに大きくならないのだ。

 事実、毎年行っている定点調査の結果もそれを裏付けている。前橋市のあるポイントで調べたヒラタクワガタのサイズを計測すると、最大で五十ミリを超える。これまで年に平均五匹前後は観察できたが、平成十五年で一匹、十六年でゼロになった。しかも十六年ではその下の四十ミリでさえ五匹前後になり、反対に三十ミリの個体が、これまでの約三倍になったのだ。恐らく、今後もこの傾向は続くだろう。

 無論、温暖化の影響だけではなく、宅地開発などのさまざまな影響もあるのだが、形のないものによって周りの環境が急速に変化しているということを理解していただきたい。生態系は複雑に絡み合って成り立っている。私たち人間は環境への影響を考えた開発や保護活動を、今まで以上に考えていかなければならないのではないか。いずれ、生態系のバランスが崩れ、予想もしないしっぺ返しがくるのではないかと思う。温暖化で活発になったシロアリが、縁の下に取りついたらどうしようか…。

 今年二月十六日、地球温暖化防止のため、京都議定書が発効された。国は世界規模で対策の推進に貢献するとの談話を発表したが、国だけではなく、国民一人一人がガスや車などの使用を減らす努力が求められる。

(上毛新聞 2005年8月24日掲載)