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フリージャーナリスト 立木 寛子さん(東京都江東区)

【略歴】前橋市生まれ。新聞記者を経て84年からフリー。医療関連分野を中心に取材執筆。著書に「沈黙のかなたから」「ドキュメント看護婦不足」などがある。

猫の命は軽いのか


◎飼い主のモラルを問う

 空前のペットブームの陰で、命を簡単に絶たれる猫たちがあとを絶たない。

 インターネットの「猫の里親探し」サイトなどで新たな飼い主を待つ猫は、全国で千匹以上。しかし、こうした一部の人の善意で保護され、手厚くケアされる猫たちはほんの一握りで、その後ろには家を持たない猫の存在がある。救いの手が届かなかった猫は動物保護センターなどに持ち込まれ、年間約三十万匹が殺処分されている。いずれも人間の勝手で野良猫や放棄猫となった親猫や子猫たちだ。

 引っ越しの際、置き去りにしたり、「結婚相手が猫嫌いなので要らなくなった」「家猫が子供を産んでしまったが、飼いきれない」等の理由で簡単に捨てられる。避妊、去勢手術をしないで捨てられる場合がほとんどのため、すぐに子猫が生まれる。猫は年間三回から四回、数匹出産するので、数は増え続けていく。

 「野良犬は激減しましたが、野良猫は確実に増えています。日本動物愛護協会や県などが、一生飼う、虐待しない、避妊・去勢をする、などの啓けい蒙もう活動をしていますが、効果はほとんどありません。飼い主のモラルが問われます」と話すのは、前橋市で動物病院を開業しているK獣医師だ。

 野良猫を減らす有効な手立ては、「捨てない」ことと「飼えないのなら殖やさない」ことに尽きる。もちろん意識の高い飼い主もいるが、そうした人ばかりではないところに問題がある。

 県獣医師会が開催する里親会で子猫などを譲渡する際、避妊、去勢手術費用の一部を補助(雌一万円、雄五千円)する補助券を渡しているが、誓約書にサインをしたにもかかわらず、実際に手術を受けさせる飼い主はわずか三割ほどにとどまっているのが現状だという。K獣医師は言う。

 「別の里親会でも避妊、去勢手術の必要性を説明したうえで猫を譲渡し、時期を見計らって県動物管理センターから電話で『手術する時が近づいています』等の連絡をしても無視する飼い主があとを絶ちません。揚げ句の果て、子猫を生ませてしまい、同じ里親会に引き取ってくれと持ち込む人まで出てくる始末です。これには本当にショックを受けました」

 飼い主の意識にばらつきがある今、不幸な命を救う方法はあるのだろうか。K獣医師は「登録制が有効」と指摘する。猫の体内に、飼い主の住所、氏名などの情報が入ったマイクロチップを埋め込むことを法律で義務付けるというものだ。避妊、去勢の啓蒙活動が行き詰まっている以上、導入の積極的な検討が必要だろう。

 また、動物保護センターなどに処分を求めて猫を持ち込んだ人に対して、その処分の様子を見届けることを条件に引き取るというのはいかがだろうか。「殺処分」を「安楽死」と勘違いして、注射などで眠るように死んでいくと思ってはいないだろうか。現実は、二酸化炭素ガスで窒息死させられるのだ。苦しむ姿を見せてモラル向上を訴えないと駄目なほど、猫たちの命は軽んじられている。

(上毛新聞 2005年8月25日掲載)