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弁護士 神山 美智子さん(東京都港区)

【略歴】伊勢崎市生まれ。伊勢崎女子高、中央大法学部卒。65年に東京弁護士会に登録。03年4月から「食の安全監視市民委員会」代表。

主食を守ろう


◎不可解な国の取り組み

 日本は世界一カドミウム使用量の多い国で、米などの食品が汚染され、人体も汚染されています。摂取量も汚染の程度も世界で高い方です。カドミウムはイタイイタイ病の原因物質として知られていますが、腎臓機能に悪影響を与え、発がん性もあります。

 現在、高濃度汚染地域は土壌浄化作業などを行うことになっており、〇・四ppm以上汚染された米は農水省が買い上げて、工業用糊のりなど食用外に転用しています。EU(欧州連合)、韓国、中国は〇・二、オーストラリアは〇・一、台湾は〇・五という基準を設けています。

 国際食品規格委員会(通称・コーデックス)は、穀物の残留基準値を〇・一にしようとしており、精米は〇・二になりそうでした。その根拠は、国際食品添加物専門家会議が定めた暫定一週間耐用摂取量(体重一キロ当たり七マイクログラム)にあります。

 これに対し、農水省や厚労省はわざわざ、人体影響に関する明白な証拠はないという論文を提出して、〇・四にするよう圧力をかけており、〇・四で決まりそうだともいわれています。

 日本人の主食である米の残留基準値は本来、国際基準より厳しくて当然なのに、穀物の四倍もの緩やかな基準にしたいと頑張っているのです。これは一体どういうことでしょうか。残留基準値が〇・二になったら、政府の買い上げ量が増大し、莫ばくだい大な予算がかかるから規制を厳しくしたくないのだ、としか思えません。日本政府は国民の健康を犠牲にしてまで、出費を抑えようとしているわけです。

 また今、農水省系列の農業技術の研究所が、新潟県上越市で遺伝子組み換えイネの屋外栽培実験を強行しています。カラシナからとったディフェンシン遺伝子を組み込み、いもち病や白葉枯病に強いイネを作るのだそうです。周辺農家も消費者も反対しているのに、研究所側は、これは国家的プロジェクトであって、今中止すると莫大な損失が出る、と言っています。

 世界で行われている遺伝子組み換えは、ほとんど油の原料と家畜の餌用作物です。欧米では、人間が食べるパンになる小麦の遺伝子組み換え計画がありましたが、多くの消費者が反対したため、メーカーが開発を断念しました。それくらい主食は大切なのです。

 それにもかかわらず、なぜ農水省系列の農業技術を推進すべき研究所が、主食である米の遺伝子組み換えなどということを考えるのでしょう。遺伝子組み換え技術はまだ始まって日も浅く、いわば人体実験段階です。

 食品としての安全性評価も受けていないイネを栽培して、もし周辺に遺伝子汚染が起こったら、米どころ新潟で米が作れなくなります。周囲の反対を押し切ってまで、実験を強行する意味は一体何なのでしょう。中止して発生する損害と、遺伝子汚染が起きたときの損害を比較すれば、後者の方がはるかに大きいことは誰にでも分かるはずです。

 自分たちの主食を大切にしない政府、悲しくなります。

(上毛新聞 2005年8月26日掲載)