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君津市国保小櫃診療所所長 提箸 延幸さん(千葉県君津市)

【略歴】前橋市内の病院に20年勤務し、その間、アフガニスタン、アフリカなどで医療救護活動に携わる。近著に「写真で見る海外紛争地医療」(医学書院)がある。

衆院選を振り返って


◎郵政の次は医療改革だ

 今、医療界では「明確な証拠や根拠に基づく医療(EBM)」が広まりつつある。従来の医師の個人的な経験や裁量に頼る医療から医学的に合理性のある医療への転換である。

 翻って、今回の衆院選で合理的な論議がなされたであろうか。「郵政」を例にとれば、反対派が論拠の一つとして挙げた「へき地、離島の郵便局がなくなること」について論議を深めてほしいと思ったが、廃止が予想される郵便局の具体的な地域や数字が示されず、情緒的な議論に終始したことは残念だった。

 「郵政」以外の選挙の争点として世論調査では「年金」「行政改革」が挙げられていた。この三つの課題の共通点や、小泉さんが「官から民へ」とマイクが壊れるほど絶叫していたことを考えると、今回の選挙は「官」と「民」の権力争いかもしれない。それではお前は「官」派か「民」派かと問われれば、地方公務員であるので「官」と言いたいところであるが、わずか一年半余りの勤務の間に必ずしも「官」を支持しない気持ちに傾いている。

 医療を例として、この課題を考えてみる。まず、独立採算の医療施設と「公」の診療所の一番大きな違いは何かと考えると、職員の経営に対する「危機意識」の違いに思い当たる。「採算がとれない地域であるから公的施設の存在意義がある」という思い込みに安住して、長年、赤字が続き、多額の税金投入が常態化していても職員は異常事態とは思わない。逆に当たり前の仕事の効率化、無駄の廃止を目指すと「自分の職場がなくなるのではないか」と疑心暗鬼となるから難しい。

 では「公」の可能性に期待できないかというと、そうとも言えない。「国民健康保険」財政が危機的な状況になっている。群馬県の状況は分からないが、千葉県の市町村では担当職員が異口同音に「数年のうちに破たんするのではないか」と危き惧ぐしている。医療費を抑制する行政的な施策はなされているが、「医療費の節減に努力します」を基本理念とする病医院を日本中、聞いたことがない。

 自ら倒産を望む病医院はないので、医療機関は診療収入を増やす算段に知恵を絞り、その財源の分捕り合戦に参戦しているのが現状であろう。しかし、医療保険制度が瓦解すれば、その上に乗っている病医院はどうなるのか? 当診療所では本年度一千万円の医療費の節減を目指して努力している(焼け石に水?)。赤字経営から脱却を目指す一方で、医療報酬の請求を減らす、という二律背反に取り組んでいる。

 乱診乱療を行えば経営は改善するであろうが、小ガメが肥えても親ガメがこければ、皆こける。医学会も診療指針に医療経済を導入してほしいと考えるが、医学会の指導的な医学部教授たちは製薬会社がスポンサーとなる講演会に忙しい。

 「郵政」「年金」の次は「医療改革」と考える。小泉さんは「郵政改革のためなら殺されてもいい」と言ったが、「郵政」で死ぬ人はいない。しかし「医療」が破たんすれば、弱者が確実に不幸な死に直面することになるだろう。

(上毛新聞 2005年9月13日掲載)